2012/03/04

モルディブ(書籍)

旅行記・渡航記は書く人の個性によって、おなじものを見て感じたとしても全然違った作品として活字に現れるもので、文章による写生のようなものだと思っている。従って、文章能力が下手な人だったら、感性が良いとしても、残念ながら読み手によっては全然感動が伝わらないものになってしまうし、書き手の文章が上手くても、感じる能力がダメならば、文章にしたときには何の魅力もないものになってしまうものだ。

谷村志穂の著本「モルディブ」を読んだときに、久しぶりに駄作の旅行本にあってしまったとがっかりしてしまった。そう思ったのにはいくつか理由がある。

自分が男性だからということもあるのだが、概して女性が書く旅行記というのには、滞在中の視点がすごいピンポイントでしか物事を見ておらず、そのため見た・感じた・触ったというのを紹介するときには、同様な場所に読者が行ったとしても、決してそれを感じることができるとは限らないような書き方をしているのだ。しかし、文章を書いた本人は「感じた」というのだから、妄想的にも感じたんだろうが、他人に伝えてもその共感はかなり少ないものになってしまうものだろう。そして、ピンポイントの視点で得た情報や感想を、その土地の様子を第三者からみた視線で記載されているような文章にはまずお目にかかったことがない。一人称で見たものや感じたものとして表現しているのだ。これは悪いことではない。なぜなら自分がそう感じたのを素直に書いているだけなのだから。だから、個人日記としてあとでその人個人が楽しむのであればそれでいい。しかし、読み手にとってはたとえそれが著者そのものが感じたものであったとしても、文章化するときには第三者の目線で、著者はこう感じたのだという表現にしたほうがしっくりくる。だいたい読み手が読んでいるときの気分と、著者がその場にいるとき、そして文章化しているときでは、まったく気分が異なっているわけで、同一的に感性を感じることなんかできるわけがないのである。この本「モルディブ」も、まさしく第3人称目線ではなく、第1人称で記載されているので、読み続けると「あぁ、そうですかぁ。」と感情がない返答が出てきてしまうだけだった。

さらに、女性旅行記では、何かトラブルがあったときに、そのトラブルから逃避するために海外に出かけて自分探しや癒しを求めて、そして帰国したときにそのレポートを書くというスタイルのようなものが結構多い。こういうスタンスで書かれたものは、中身が無くて本当につまらないものなのだ。この本もまさしく同じように該当する本であり、谷村志穂自体、モルディブに行く前は、日本で相当男で苦労したような人のようである。それで逃げるようにして、青い海が広がっているモルディブまでやってきて、モルディブの男にチヤホヤされるのを期待して渡航したことがよく伝わってくるような内容である。モルディブの人はスリランカ系統と同じような人種であるため、肌が浅黒く掘りが深い顔をしている。そういう人たちから見ると、色白で年齢不詳のような若そうに見える日本人女性を見たら、そりゃぁ、姫様がやってきたみたいに思え、良ければ自分のものにしちゃえと虎視眈々と狙っているような人たちも居たことだろう。そういう人たちに囲まれてしまえば、日本で男に捨てられて、もう嫌気が差しているところだった人にとっては、海外にいってチヤホヤされたら、私って人気者かも!?と大きな勘違いをしてしまい、やっぱり日本の男は私を見る眼が無いんだと、勝手な結論に陥ることになるんだろう。それが文章を通してすごい伝わってきたので、何をこの女は本を通して訴えたいのだろうか!?と思ったのは言うまでもない。

もちろん、本の中には当人が現地で撮影したスナップ写真もカラーで結構たくさん紹介されている。風景写真だけではなく、現地でチヤホヤされているような自慢写真も掲載されている。そんなのは読者は見たくないのだ。現地の生活や風景や生の表情が知りたいのであって、現地で満足している30オーバーのババァのお気楽極楽滞在状態なんかは見たくないのである。黒柳徹子くらい超有名人になって、現地の人とどのように接触して、現地のひととのスナップ写真であれば、読者は見たいと思うようなひとも結構居るだろう。出版社に乗せられたのか、その辺の素人ババァに文章を書かせて出版したような本に登場してくるような本のばあいには、著者の表情まで見たいというニーズはもともとないと思われる。

どこかの本のレビューにも書かれていたような気がするが、この谷村志穂という人、いつの時代でもずっとバブル時代を引きずって生きているような人なんだと思う。バブルの時代はどんなブサイク女でも、それなりに男にチヤホヤされていて、それで女は満足し、男は女を満足するために存在する下僕であるというようなことしか思っていないような女性が多かった。これだけ日本経済が長い不況時代になったという状態でも、彼女の脳みその中では常によきバブル時代が当然のことだというところから抜け出せず、現在の経済状況、はたまた女性に対する男性の姿勢というのを許容できるような気持ちが全く持っていない人なのだと思う。だから、この文章がこの本では「モルディブ」ではあるのだが、実際にはタヒチでもジャマイカでもトラック諸島でも、場所はどこでも良かったんだと思うし、どこに行っても、同じような文章でしか彼女は書けないのだとおもし、現地へ行って何を期待するかという姿勢も全く変わらないのではないのだろうか?

男が読む本ではない。病んでいる女が読んで、「私もやってみよう」と妄想世界に一緒に浸りたいというような人は読めばいいと思う。健常女性が読むと、きっと「馬鹿じゃない?」としか思えない本として映ることだろう。この本を新刊で買った人はお気の毒さま。古本屋で100円で今回は買ったのだが、新刊でも100円で良いんじゃないのか?というような内容に個人的には感じた。

モルディブ
著者:谷村志穂
出版社:スターツ出版
発売日: 1999/10

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