2010/08/22

yoku moku

洋菓子の「yoku moku」はとても好き。特に定番のシガールは大好きだ。旅行のときにセットをデパ地下で購入して、そのまま出かけてしまうというのが一番手軽だし、値段も手ごろだからだ。

表参道から根津美術館に行く途中に、青い壁の洒落た店があるので、なにかなーとおもったら、なんと、そこがyoku mokuの喫茶店である「ヨックモック青山店」であった。まさかyoku moku ごときでこんな喫茶店があるなんてーとおもったのは言うまでもないが、和菓子では虎屋だって喫茶店はあるし、パンやの木村屋だって喫茶店があるんだから、ものは考えようで、洋菓子の喫茶店があったって良いじゃないかということになる。ここで売られているのは定番のyoku moku のお菓子だけではなく、ジュレと呼ばれるゼリー状のデザートのほか、一般のyoku moku では売られてないケーキ類もコーヒーのお供として売られている。
店内は屋内席と屋外席があるのだが、夏のクソ暑いときには屋外席でのんびりなんていうのはさすがに嫌だろう。店内から屋外に座っている奇特な人を笑いながら観てお茶をするのも良いだろうと思う。店員の態度は立派で、ひっきりなしにお客さんの様子を広い店内を回って確認しているのはすばらしい。が、言い換えればちょっとうっとうしいという気もする。あとは難点を言うとすれば、トイレが小さい。店内に収容できる人数の割には男子用トイレが1個しかなく、この店は女子用の店なのか?というようなことを思いたくなる。

「ヨックモック青山本店」
住所:東京都港区南青山5-3-3
Phone : 03-54850-3330
営業時間:10:00 - 23:00

アジアの怪しいニュース

クーロン黒澤というと、タイ・カンボジア・ベトナムを中心として、セックス・ドラッグ・やばいもの全部を総括して、それを面白おかしく、日本でのほほーんと生活している日本人に対して、日本人が想像するアジアのごちゃごちゃした様子を解説したり、かなりのデフォルメをして紹介している書物をたくさん書いている人で、一気に脳みそを使わずに読める本ばかりだから、結構好きである。

「怪しいアジアの怪しいニュース」についても、いかにも日本人が好みそうな内容の読み物になっている。内容は、実際に各国の新聞記事になっているものから、日本では想像がつかないような変なニュースばかりを紹介して、その事件が起こった文化的・環境的・経済的な背景を解説しているというものだ。

舞台となっているのはタイ・ベトナムとカンボジア。クーロン黒澤の得意とする3カ国である。これにラオスが入っていれば完璧なのだが、ラオスはあまり情報として入っていない。実際に、これらの3つの国に行ったことがある人であれば、現在なら既に経済的に好景気になっているために、街並も一般的な日本人が想像するような、ボロ・貧困・汚いというような場所ではなくなっていることはよく知っていると思う。しかし、まだまだ多くの日本人は、アジアの各国は中国も含めて、どうしようなもない汚く、貧しく、危険がいっぱいで、まともな人間が居ないというような野蛮族の巣窟のように考えている人たちがたくさんいることは否めない。

そんなアジアを想像している典型的な日本人が読んでもおもしろいというか、期待通りのめちゃくちゃぶりだと納得できるのがこの本だろうと思う。

現地に行ったことがある人であれば、新聞やテレビでの普通のニュースは、日本みたいにぼかしはまったくないし、犯人についても容疑者である間は名前が伏せられていたりということは全くなく、捕まった瞬間からみんなの笑いものや怒りの対象物として世間に公表されるものである。もちろん、被害者についても、スプラッタームービーのように血がドバーっと出ていたり、土佐衛門として道端でくたばっていても、それをクリアな映像で堂々と放送しているのが東南アジアである。視聴者が「知りたい」と考えているからそれを実現しているだけというのが彼らの本音である。日本だと、結構それがあってないようなくらいのぼかしになっていたりすることがある。また、よく擦りガラスで、声を変えてインタビューというのがあるが、あんなものは東南アジアでは存在しない。誰もが顔出し、音声変更なしで登場するのだ。また、捕まったばかりで、後ろで手を縛られたままの犯人に対して、テレビインタビューをしたりしているのは頻繁に見られる。また、さらにいうと、凶悪犯がようやく捕まった場合、被害者の親族が捕まった犯人に、竹刀みたいなものや拳骨で普通にぶん殴っていたりするのをテレビ放送で堂々と放送しているのも良く観る。小さいころからこういう場面ばかり見せられていると、大人がやっていることはやってもいいんだと子供は思うんじゃないのだろうかとおもうが、これが文化の違いである。

そんな文化の違いの中で、現地では普通の事件として取り上げられているものも、日本人から観たら奇異だったり、それは倫理的におかしいだろうというのが結構ニュースとしてあり、それを紹介している本であるので、本当にそんなバカな事件があるのかと、読んでいるとだんだん信じられなくなってくる。たとえば、抗議のために、抗議対象の会社の中で、バケツいっぱいにいれた糞尿を、自分の頭の上からかぶって抗議したとか、そんなの普通の日本では考えられないだろう。でも、そういうのを紹介している。

全体構成として、4部構成になっており、最初は「んな、あほな」というようなニュースばかりを扱っている。そのあとは、「残酷な話」のオンパレード。そのあとが「後味が悪い」ニュースばかりを取り扱ったもので、最後に、世界のペテン師大集合といったような内容ばかりだ。

最初の「んなあほな」というものは別にして、「残酷なニュース」というのは、人身売買と子供による殺人事件と麻薬だ。麻薬や殺人は日本でも存在するからそんなにびっくりはしないが、やはり毎回似たような事件を見て、ちょっと嫌だなーとおもうのが、人身売買だろう。金のためなら身内も売るというのは、どこの国でも存在していたものであるし、日本でも戦前は特にそのような習慣があったことは有名で、それが発展したのがからゆきさんだ。ベトナムやラオスあたりでは、まだまだその人身売買+売春というのがまかり通っているようで、一度その罠に嵌まってしまったら二度とまともな生活ができないという。

この本が書かれたのは2002年ごろであり、出版されたのは2005年のことだから、いまではだいぶ経済的に向上しているこれらの地域のことは、本で記載されたような残虐で野蛮な行為がまだ残っているとは思いたくない。(実際にはあるらしい)もともとその民族が持っていた気質なのか、それとも経済が向上すれば必然的になくなる行為なのかはよくわからない。しかし、世の中こういう事件が普通に存在するのだということを、のほほんとふんぞり返っている日本人は知っておいたほうが、海外に旅行へ出かけたときに気をつけるポイントとして役に立つと思う。

「怪しいアジアの怪しいニュース」
著者:クーロン黒沢 (著), 梅本 善郎 (著), リン外川 (著)
出版社: ベストセラーズ
文庫: 285ページ
発売日: 2005/02/05

電車でぐるっとよくばり台湾

台湾に関する旅行の本はここ最近たくさん出版されているのだが、写真ではなく、絵で描かれているような旅本があると、どうしても避けてしまうところが多かった。写真だと見ればその通りだという情報量を持っているのだが、同じ画像でもデッサンで描かれたものだと、本物さが全く伝わってこないために、本来情報として伝えるはずの量が半減してしまうからである。

「電車でぐるっとよくばり台湾」もまさしくそんな本の1つである。前から出版されているのは気になっていたのだが、こんな本ごときに定価で買うのはもったいないとおもい、イーブックオフで100円で売られるのを待って買うことにした。忘れたころに「在庫在り」の連絡がイーブックオフからあったので、他の書物と一緒に購入したのだが、結果から言って、すこしだけしか情報は役に立たなかった。

すこしだけと書いたのは理由がある。全然役に立たなかったではないのでお間違いなく。そのすこしだけと書いたのは、台湾について書いている旅本の多くは「台湾」と記載しているのに台北しか書いていないことが多いのだが、この本は台北ではなく、どちらかというと台南や嘉義から南の地域に関する記載が結構多いからである。特にあまり情報として他の本には記載されない台南についての情報は重宝した。といっても、ほとんどが食べ物の情報ばかりなので、史跡に行くための交通情報や史跡に関する裏情報というのは全くといっていいほど記載されていない。

女性が記載しているから、どうしても食べ物と小物に関する情報が多くなってしまうのは仕方ないと思う。しかし、食べ物ばかりだからと侮ってはいけない。この著者、食べ物に関しては1日のうちにいったい何回食べればいいんだよーというくらいのたくさんの食べ物を食べていることに読んでいるうちに気づくはずである。もしかしたら、複数回兼ねて同じ場所を訪れて、それをまとめて記載しているのかもしれないが、どう読んでも文章から考えてみると全然複数回の訪問とは思えないのである。

近い、安い、美味い、気候がいい、安全とすべてにおいて満足している場所台湾。以前より相当台湾へ行く旅行者の数が増えたのは台湾フリークとしてうれしいことだと思うし、自称・台湾宣伝屋として友達や会社で宣伝しまくってはいるのだが、あまり反応がいまいちない。しかし、密かに台湾に旅行に言っている人は多いんだろうなというのは想像できる。できれば、そういう旅行者も最初は台北しか行かなくても、2回目以降は台南や高雄を中心とした南部へ行ってもらいたいともう。台湾のいいところがたくさん見つかるから。この本も台北だけではなく、台湾のいいところを引き出すために必死にいろいろな各地を紹介して、何一つ悪いことは記載されていないことに気づくだろう。それだけお勧めなのである。

程度の度はどうであれ、台湾旅行を計画している人はたくさんのガイドブックを読んで、どれが自分の旅行スタイルにあったものかを吟味して欲しいと思う。この本は、個人的には10点満点中4点かな。繰り返して読むような本ではないと思ったところが減点対象。本人、絵本作家だから、どうしても写真より絵を中心に記載してしまうのは仕方ないのだろう。


電車でぐるっとよくばり台湾
著者:とまこ
出版社: アスペクト
発売日: 2010/3/8
単行本: 144ページ

イタリアものしり紀行

「添乗員ヒミツの参考書・魅惑のスペイン」の著者である紅山雪夫が書いたイタリアに関する書物「イタリアものしり紀行」は、スペインのときと同様、イタリア全体の各都市に関する歴史と著名な見所について記載した書物である。文体がスペインのときと似ているため、これは本当に読みやすい。ただ、この本の難点をいうとすると、カプリ島のことは書いているのに、それよりも歴史的には重要なシチリアのことが1行たりとも記載されていないことだろう。ローマ帝国のことを記載するには、シチリアを抜きにしては語れないと思うのだが。

日本人に人気のあるイタリアの各都市に関しては詳細に記載されているので、これは読んでいて楽しい。イタリアの場合は、見るところがたくさんありすぎるために、事前に情報を入れていたとしても、どれがどの情報なのか錯誤してしまいそうなくらいの情報量になってしまうために、帰国後にこの本を読んで、各都市に存在する遺跡各種のことを自分で撮ってきた写真と照らし合わせて再読するのをお勧めしたいと思う。初めてイタリアを訪れる場合には、いろいろな思いがあって、あまり情報を入れても消化不良になって仕方ないと思うからだ。見るに良し、買い物にも良し、食べるにも良し、芸術的にも良しと、初めてのヨーロッパ旅行であれば、イタリアに行くことを絶対にお勧めしたいのだが、そういう人が帰国後に読むにもちょうどいい書物だと思うからだ。

ローマ帝国からルネサンスを経由して脈々と続くイタリアの文化は、教養が絶対に必要になるところであり、イタリアの旧貴族の人たちと話すためには、こういう教養がとても重要になってくるので、ヨーロッパの歴史をあまり知らない日本人にとってはいつまでたっても彼らにしてみたら野蛮人にしか思われない。ヨーロッパの文化は、ほとんどイタリアで培っている文化にも似ているところがあるので、イタリア文化について精通していると、現地の人も舌を捲くことだろう。

最近映画にも登場して、日本人がそれまであまり来ないところだったところがアマルフィ。この本にはそのアマルフィについては記載されていない。たぶん書かれた本の時期が、この映画が上映される前だったから、日本人観光客がそれほど行かない地域であったためだとは思う。しかし、カプリ島はそんなに人気なんだっけなー。やっぱり青の洞窟があったから有名なのだろうか?

ご飯のことについてはほとんどこの本には記載されていないため、どういう料理が地元のご飯なのかというのを知るには、情報不足だろうと思う。しかし、それを除いて、建物や美術・芸術に関する情報については、ガイドブックに載っているものよりも断然多いから余裕がある人は、この本を持っていくにはいいかもしれないし、泊まっているホテルで夜にちょっと見るためにはいいかもしれない。

イタリアものしり紀行
著者:紅山 雪夫
出版社: 新潮社
文庫: 335ページ
発売日:2008年5月1日

南蛮阿房列車


鉄道作家の宮脇俊三の書物は読むのがとても好きなのだが、そのなかで度々登場するのが阿川弘之のこと。宮脇俊三が平成に入ってからの鉄道作家としたら、阿川弘之は昭和の鉄道作家といったところだろうか。といっても、阿川弘之は鉄道関係以外の書物のほうが断然多く書かれているので、あまり鉄道作家だという意識はしたことがない。ただ、宮脇俊三いわく「阿川さんのような流れる文章は私は書けない」と尊敬のまなざしで見ていたようだったので、実際に阿川弘之の鉄道に関する本というのはいったいどういうものだったのだろうか?と、結構前から気になっていた。

何気にブックオフに行ってみたところ、100円コーナーのところに、ひょいと偶然見つけてしまったのが、阿川弘之の「南蛮阿房列車」である。

宮脇俊三も世界のいろいろな鉄道に乗って、その出発前のドタバタや列車に乗っているときの列車走行に関する時刻の正確さや、同一コンパートメントに載ってきたほかの乗客とのやり取りに関して、自称・猫的視線(他人にはわからないが、自分では詳細に分析しているつもり)で表現しているところは、拝読していて面白い視点で考察しているなーと感心するところばかりだったが、阿川弘之も負けじと道中のドタバタについては記載されていて、宮脇俊三とは違った列車オタクの面白さが伝わってくる。

宮脇俊三は、大抵は一人で列車に乗ることを喜びと感じている。つまり誰かと一緒だと誰かを気にしていて、のんびり列車に乗れないという性質なのだ。自分の世界に浸りたいという典型的な猫人間であるために、他人に邪魔されたり、他人を意識しながら行動することほど面倒くさいものはないと思っている人だ。しかし、阿川弘之は違う。絶対にひとりでは電車に乗らない。常に、半分相棒になっているマンボウこと北杜夫と、狐狸庵の遠藤周作の二人を伴っているところがおもしろい。双方とも日本の代表的な作家であるが、これらの人たちが、阿川弘之の電車ごっこに付き合わされることによって、人間味あふれ、たまには「もう嫌だ」と泣きを入れているところが面白すぎる。阿川弘之側から見たら、毎回泣きを見せられるのだが、それが面白いのだろう、毎回泣いたり、もう嫌だと言う北杜夫のほうを必ず同行させているから、彼は絶対Sっ子に違いない。

文章の中では北杜夫は医者ではあるのだが、躁欝激しい人のようで、欝の時の北杜夫を無理やり電車に乗せるところなんかは、大阪の商売人が勧誘をして無理やりモノを売っているように、むりやり列車に乗せているやりとりが面白い。

宮脇俊三は、海外で列車を乗って、そのレポートを記載する際には、列車が走る風景や列車の車両やあとは列車の通るエリアの文化的なことをすこしは記載する。しかし、阿川弘之の文書は全然違う。列車に乗るまでのことと、列車に乗ってこんなに楽しかったー!ということと、列車の旅っていうのはやっぱり面白いという、この3点ですべての文章を語っているところが違いだ。だから、列車オタクじゃない人にとってもこの文書を読むと、列車好きなオッサンが友達とトタバタで旅行をしている体験記を書いているんだなというように読めることだろう。でも、実際にその通りかもしれない。

本著において、記載されている海外列車旅行については次の通りである。

・パリからトゥールーズまでのTEE
・マダガスカル
・タンザニア
・カナダのオンタリオ州列車旅行
・カナダのトロントからジャスパーまでの特急旅行
・台北から東港までの莒光号
・ロンドンからエジンバラまで
・地中海飛び石列車旅行
・マイアミからウェストパームビーチまで

本書自体がめちゃくちゃ古い本であるために、もうそんなもの無いよというような列車が書かれているのは文章で歴史的なものを知るといういい手がかりになるものだ。特に、最初のヨーロッパ特急の話は、Trans Europe Express のことを書かれていて、今のInter City特急の前身になることを記載されているのは興味深い。TEEのことは、Kraftwerk の Trans Europa Express くらいでしか、実は名前はみたことが無かったからである。

さらに、ケニアまで行って、キリマンジャロまで繋がっている鉄道に乗るために来たのに、もう廃止になってしまったという話を聞いたのに、ここまで来て列車に乗らないのは自分が許さないという、意味不明な性分のために、他人を巻き込んで近隣国の列車に無理やり乗ろうとすることと、それに振り回される北杜夫とのドタバタ劇については、腹を抱えて笑ってしまった。

それと、自分の性である「阿川」と関係あるのではないだろうかというだけの理由で、カナダのオンタリオ州にある超田舎駅である「AGAWA」に行くという話しも面白い。自分の出土が山口県だから、山口県の移民と関係あるのではないかというやりとりとか、アメリカに留学している息子を使って、沿線に住んでいるAGAWA姓のカナダ人を片っ端から電話を掛けるという変な趣味を持っているのも面白かった。

すべての列車旅行が順風満帆に行かないところが、この著書のおもしろいところだろうと思った。全部うまく行ってしまっては、話にふくらみが出ないからだ。たまにはこういうドタバタ列車旅行の本を読んで、脳みそゼロにしてしまうのもいいだろうとおもう。

南蛮阿房列車
著者:阿川 弘之
出版社:新潮文庫
出版日:1980年11月15日

添乗員ヒミツの参考書 魅惑のスペイン

日本から見るとスペインは1つの大きな塊のように見えるのだが、実際には各都市・各地方によってはかなり文化的な違いがあるおもしろい場所であるらしい。もともとイベリア半島自体が4つの異なる国家から形成されていたから、それがいまだに深くスペイン全体に残っているというためなのだろうと思う。日本も外国から見れば、1つの東洋の奇妙な文化を持つ国にしか見えないと思うが、実際に日本に住んでいる日本人から見ると、各県でさえ、それぞれ方言があり、互いに通じない文化があったりするのがわかる。それと同じようなことがスペインにはどうやらあるようだ。

紅山雪夫は長いこと添乗員としてヨーロッパの各都市・各国を廻っており、スペインのみならずイタリア・ドイツ・フランスと、日本人観光客が特に訪れる国の歴史と文化については造詣が深い人である。「魅惑のスペイン」は、スペイン全土を歴史的な観点からの説明と、各地方ごとに分けて、それぞれの見所とその背景をそつなく紹介している。

他の添乗員が自分が添乗する際には紅山雪夫の著書は必携書であるといわめているほど、この本はよく書かれている。全くスペインに関して知識も減った暮れもないような人が居たら、まずはこの本を読むべきだろうと思う。そうすれば、スペイン全体のことが知りたくなるだろうからだ。

各都市を周る際には、ガイドのお供にこの本をもって行くのはとてもいいことだろうと思う。そして、都市の紹介をする際には、はずしてはならない箇所は必ずといっていいほど記載しているし、ガイドブックには記載されないような奥の深い内容が記載されているからだ。他の本と同様、この本もどこに泊まって、どこでご飯を食べるのがお勧めであるなんていうのは一言も書いていない。だから、買い物と食べ物しか興味がないような人には、まるっきり役に立たない書物だろう。まぁ、そんな買い物と食べ物しか興味がない人は、世界のどこに行っても「行ってきた」ことが目的であり、中身はどうでもいいことであるため、それなら銀座の各国料理屋でご飯を食べていたほうがいいんじゃないのか?と疑問を持ってしまう。

スペインは歴史抜きには訪れてはいけない場所だと思う。ガリアによる統治のあとイスラムの台頭、レコンキスタのあと、大航海時代になり、イギリスとの植民地戦争に負け、2つの世界大戦のあと、フランコの独裁を経験している。こんなに歴史的に面白いところはないだろうと思う。それを紅山雪夫は奇麗にまとめて、そして各都市の分析と見どころに関して丁寧な文章で説明を加えているのは素晴らしい。

スペイン旅行のお供にぜひ、この一冊を持って歩くべきだろう。

添乗員ヒミツの参考書―魅惑のスペイン
著者:紅山 雪夫
出版社: 新潮社
出版日:2009年5月1日

スペイン、とっておき

スペインに関する本を読むのであれば、中丸明の著本を読まない手はないのだが、毎度毎度思うことは、彼が書いている書物の中の文体が、ほとんど酔っ払いの名古屋のオッサンが書いているような文体なので、名古屋以外の人が読むには、とてもスラスラ読める代物ではない。そして、ところどころ、オッサン正気か?というような文章の書き方をしていて、書いているときにはとても素面ではないんじゃないのか?と疑問視をしてしまうような書き方には、何度読んでも馴れない。一度でいいから、まともな言葉で、ただしいスペインについての書物を書いて欲しいところである。

本人はスペインに長く住んでいるのだろうと思うことと、ドン・キホーテを中心とした、スペインとスペイン人に根付く文化については造形が深いものであり、今回評価したい書物「スペイン、とっておき!」についても、随所、ガイドには掲載されないスペインの各種様子が文章から感じることはできるだろうと思う。

ただ、何度もいうように、この本をすべて鵜呑みにしないほうがいい。また、ガイドブックとして使うことは無理だろうと思う。確かにところどころは、他の文章とは異なり、いきなりまともな書き方をしているところもある。が、大抵は、スペインの町の裏道にはこんなへんなオヤジがいるとか、ウンコ、シッコ、マンコ、チンコと、子供が喜びそうな単語が散らばっている散文であるからだ。だから、下品なスペイン語を覚えたいなら、この本でも大抵は覚えられるだろう。

「スペイン、とっておき!」の中身は、スペインの都市の中で、以下の都市についてのみを紹介している。

・マドリード
・ビジャルバ
・トレド
・グラナダ
・コルドバ
・バルセローナ

スペイン旅行の前に、脳みそを空っぽにして、各都市でどんなことをしようかなと迷っているときには、この本を読むことをお勧めしたい。読んだところで、どこを廻るかという参考にはならないと思うのだが、それでも各都市の雰囲気というのは感じられると思うし、その雰囲気を事前に知って各都市に行くのでは、心積もりも変わってくるだろうと思う。

実際にスペインの各都市をガイドブックからすこし深く知識として知った上で旅行するための本としては、後で紹介する紅山雪夫著の「魅惑のスペイン」のほうが断然いい。これはポケットサイズで入る書物なのでもっていくにも便利だろうと思う。でも、この本を読む前に、都市の感じを知るには、中丸明の酔っ払い本であるこの「スペイン、とっておき!」と読むべきだと思う。

スペイン人の気質・文化・思想・生活スタイル・言語・美術や、スペイン滞在中に注目するべき視的感覚を教授してくれるのは、やっぱり、ハイクラスの社交場ではなく、その辺のオッサンの目線で書かれた中丸明の本だろうと思う。

スペインに行く前にはお勧めだ。

スペイン、とっておき!
著者:中丸 明
出版社: 文藝春秋
出版日:2007年6月10日

食は広州に在り

中華文化の書物を読んでいると、どうしてもやっぱり食べ物と金のこと以外で物事を考えられないということにとても気づく。金のほうはどうしても拝金主義的なところが、少しいまだに馴れない気がするが、食べ物に関しては、食わなきゃ死んでしまうという意味では国籍に関係ないため、食に関する書物を見ると、妙に納得したり、へーそうなんだーというような驚きがあったり、んなわけないだろうというようなツッコミをしたくなるのは、容易にできる。

有名経済作家であり、かつ料理にも造詣が深い邱永漢氏による「食は広州に在り」という本は、食通による薀蓄の総決算というべき書物だと思う。この本では、長く華南地方に生んでいた関係上、広東料理を中心としたいろいろな料理のことが背景と一緒に紹介されている。ご本人は台湾生まれで日本で学位を取得しているから、食の宝庫である台湾料理でもいいと思うのだが、やはり見た目豪華な広東料理が中華料理の醍醐味でもあるために、あえて広東料理を紹介している。

さすが作家であるだけで、そのへんにごまんと居る料理評論家よりは、ずっと造詣の深い批評と好評を述べているところが、読者側が料理を知らなくても想像力を掻きたててくれて、絵や写真が一切出てこないのだが、文章だけでもよだれが出てきそうなものだ。

さらにいうと、この本では、どこどこの店のどの料理が美味いというようなことは一切ない。一般的な広東料理を紹介し、その広東料理にまつわる背景を紹介するとともに、中国人がその背景を保持するようになった歴史的なつながりについても説明してくれるので、料理を通じて中華文化の歴史も知ることができる。だから、料理の本なのか歴史の本なのか読んでいてて、途中でわからなくなるところも出てくるが、知識と教養が身に付くという意味では名著だろうと思う。そして、料理といっても、特定の料理が出てくるわけではなく、「麺全般」とか「あわびにまつわる話」とか、「宴席とは」とか、広東料理を食する上での必ず通ることになる各種のしきたりについても述べているところが、異文化を知る上ではとても重要な資料だと感じた。

ぜひ、香港にまたいく場合には、再読して広東料理を堪能し、地元の香港人に「これって、こういう意味だと知ってた?」と知ったかぶりをするのもいいかもしれない。嫌がられるかどうかはその人の個性しだいだが。

食は広州に在り
著者:邱 永漢
出版社: 中央公論社
文庫: 229ページ
発売日:1996年9月18日