中国の歴史で一番面白いのは、中華民国建国から第2次世界大戦終了の頃までの、中国大陸のごたごたであるのは誰もが認めることだと思う。あの時代には、それこそ個性の強い人たちが色々な思惑で生きていた、エネルギッシュな時代なのである。その中の登場人物ではあるが、後世、隠遁生活になってしまった有名人といえば、東北軍閥で名を馳せていた張学良だろう。しかし、その張学良のことはあまり日本では書籍になっていないのである。蒋介石を西安で拉致した人としては知られているが、それは蒋介石の歴史や、国民党と共産党の内戦の中の1ページに出てくる人としてしか紹介されているに過ぎず、張学良だけにスポットを当てた書籍というのを今まで見つけることが出来なかった。そもそもそんな本があるのかも知らなかったのである。
イーブックオフで検索してみると、その名も「張学良」という名前の本を見つける。フィクションの小説かと思ったら、ほぼ史実に則った伝記ものだったので、これは是非購入。もちろんイーブックオフなので中古本だと思うが、見た目は全然中古に見えない。たぶん新古本なのだとおもう。それも第1版だし。
東北の軍閥である張作霖の子供として生まれ育ったため、小さい頃から「王子」と呼ばれて育った。軍閥といわれても、今で言うところのヤクザの親分みたいなもんだったために、そのヤクザの親分の子供として育てられていたため、周りや家にやってくる人たちからちやほやされて育ったことは言うまでも無い。父親の張作霖が無学で単なる暴れんぼう将軍だったのに比べて、どこの親でも同じように子供への期待が大変強かったため、小さい頃からヨーロッパ式の家庭教師をつけられて育った。そして当時は、満州地方を攻め込んできた敵国であった日本からも家庭教師として日本人がつけられていた。ヨーロッパ人の中国侵攻は「しょうがない」とおもっても、同じアジア人で「小日本」と馬鹿にしていた日本人による中国侵略に対してあまり快く思っていなかったというところも、基本的な中国人気質だったようである。
父親が日本の関東軍に電車ごと爆破されてからは、日本人に対して憎しみが募ったのは言うまでも無い。しかし、軍閥の長になったにも関わらず、お坊ちゃん育ちであったために他の軍閥からは馬鹿にされるし、蒋介石にも言いようにコントロールされるし、といいつつも世渡りの感覚は抜群だったので、あまりきな臭いことへの関心が少なかったように見受けられる。しかし、根っから中国をヨーロッパ諸国のように強い国にしたいという思いがあったし、日本軍に言いように自分の支配地域を脅かされることに対しても言いように思っていなかった。日本軍が自分が支配している中国東北地方ではないところへ侵攻していた場合には、彼はどういう意見に変わったのだろうか?と思う。とはいいつつも、漢民族が満州地域に入ってきたのは、そんなに昔のことではない。なんといっても、万里の長城の「向こう側」だったのだから、そこまで「中国だ」と言い張るのは都合の良い話しで、清朝のふるさとだったところであり漢民族にとってはぜんぜん関係のない地であったから、南のほうに居る漢民族の人たちにとっては、日本軍が満州地域に侵攻しても、「ふーん」と知らんぷりしていたのも当然のことといえば当然のことだろう。
張学良が日本軍を蹴散らしたいと思ったのは当然だろうし、それを当時中国で一番の実力者であった蒋介石に知らせたいという思いはもちろんあった。本当なら自分が中国の代表として立ちふりまわるのが相応しいとこのお坊ちゃんは思っていたが、実力でははるかに中央政府である蒋介石の軍隊には適わない。そこで何を思ったのか、共産党と手を組んでしまったことに彼のその後の人生を大きく変えてしまったのは有名な話し。これがいわゆる西安事件に繋がる。彼の満州地域における支配快復を願うためにしでかしたことだが、蒋介石にとっては中国全体のことを考えて行った政策であったので、まったく意見が異なる。最終的には張学良は、軍隊を没収され、領土は元々日本軍に取られたので持っておらず、蒋介石のいた南京に軟禁されたままになる。国民党と共産党の内戦がひどくになり、国民党が最終的に台湾に逃げていったときに、一緒に台湾へ行かざるをえなかった。台湾ではもちろん表立った舞台に出てくることは無い。
そんなときに著者が台湾の教会の日曜ミサで本人にあって、「かつて、お坊ちゃんと呼ばれた人がいたんだ」という話を本人から聞く。それを文章として本になっているのだ。だから、話がとても生々しい。個人的には謎だなとおもっていた東北軍閥の西安事件までの生い立ちがとてもよく分かったので、この本はとても参考になったと思う。是非、中国のあの時代が好きな人は読んでみることをお勧めしたい。
もっと早く台湾のことを知っていたら、宋美齢や張学良が生きていたときに生の彼らに会ってみたかったと思う。
張学良-忘れられた貴公子-
松本一男 著
中公文庫
1991年
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