2008/02/23
スイス探訪
スイスに関する本というのは、どちらかというとスイスの自然を写真に収めて「のどかだなぁ~」とか、またはアルプスの少女ハイジの世界をメルヘン的に紹介するというものしかなかった気がする。このように、スイス人の気質と現実的なスイスにフォーカスが当たった本というのを未だに見たことが無かった。それもこの本を書いたのが、なんとオウムの襲撃事件で話題になった「國松元警視庁長官」とあれば、何故?!という疑問が湧くのも当然だろうと思う。狙撃された人とスイスの関係が読む前にはわからなかったのだが、その理由が分かった。なんとその後、スイスの大使として赴任していたのだそうだ。そこで知りえた2年間のスイスの状況を警察的な洞察と観察力で、現在のスイスとそこに住む人たちの考え方をまとめた日記風のものが、この本の成り立ちである。
特に何も産業がなかったスイスが、列強の属国にならずにこれまでヨーロッパの中で君臨してきたかは、やはり傭兵制度があったからだというのは驚きだ。確かに今でもスイスは、EUに加盟もしていないし、もちろんNATOにも加盟していない。従って何か軍事があった場合には自力で守らなければならないのだが、それはかつて、「傭兵としてヨーロッパの各国で雇われ兵士として生活していた」から、自分のみは自分で守るという精神が息づいているのだそうだ。そして、この傭兵制度のおかげで、ヨーロッパの各国で今何が起こっているのかという情報がスイスに全部集まってきていたというのも面白い。その情報収集能力から、近代になって金融ビジネスにつながり、スイス人の口の堅さも手伝って、世界の銀行として君臨することになったという歴史をよくまとめているとおもった。マフィアでさえも、最終的にはスイスの銀行を通して綺麗な金にするということに、スイスの銀行は使われたりするので、表の舞台でも裏の舞台でも、スイスの銀行は信用で成り立っていることの証拠だ。
また、金融ビジネスで成功している人が多いから、金に対してはあまり無頓着な人が多いのだろうと思うと、実際には全く逆で、財布の紐が硬く、そうは言っても、公共のためならいくら寄付しても構わないという気質も素晴らしいと思った。どこかの大国のように、自分のためには金を使うが、公共のためには一銭も身にならないので出さないと思って居人が多いのとは全く違う。
それと、日本人は気軽に「スイス人」と読んでいるのだが、彼らからすると「スイス人」という概念が全く内容である。たまたま、世界から見たら「スイス」という名前の国に属しているだけのことで、実際にはジュネーブ人とかチューリッヒ人とか、町の名前で自分たちを呼んでいるのもおもしろい。あんな小さい国なのに連邦国になっている理由もここにあるのだろう。そもそも今の連邦になったときのきっかけが、反ハプスブルグだったというから歴史はどこでどう繋がっているのかわからないものである。イタリアとドイツの間の関所として君臨した、スイス連邦の原形になる地域が、その関所の税金を背景に巨人のハプスブルグと戦ったことはすごい。勝てると思ったことがもっとすごいし、実際に買ってしまい、スイスから追い出してしまったのがもっとすごい。
ほぼスイス全域についてのスイスの文化と考え方を述べているので、そのへんの刊行ブックよりも十分に内容として豊富であるし、役に立つものだと思った。実際にスイスに行く前に、この本を読んで、スイスのことを知り、そして実際のスイス人と接してみるのもいいだろう。
スイス探訪―したたかなスイス人のしなやかな生き方
國松 孝次 (著)
文庫: 236ページ
出版社: 角川書店 (2006/03)
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