2008/06/21

ブラジル学入門


経済著しいBRICsの一端を担っているブラジルなのだが、日本の真裏にある国で、昔からたくさんの日本人が移民として渡っているのは知っているのだが、それ以外は、サンバとアマゾンの国というくらいしか全く情報も興味もなかったところである。最近では、サッカーブームのこともあるし、ちょっと前のスポーツではF1のこともあるので、スポーツ面ではブラジルは「強い」というイメージがあるが、昔からそんなに金持ちでもない国なのに、なぜスポーツが強いのだろうという疑問はあった。あとは、サッカーの選手を見ていると、白人も居れば黒人も居れば、もちろんインディオも居れば、なんだか人種の坩堝のところなのだなーということは知っていたが、文化的には全然想像が出来ない。

そんな何故・何?というようなブラジルの疑問を解消してくれるのが、この「ブラジル学入門」だった。分かりやすい文章でブラジルの持つ民族性を端的に書いているので、これからブラジルに付いて勉強をしたいと思っている人たちにとっては分かりやすいだろう。これを知った上で、現在経済成長しているブラジルというのを見つめてみると、納得するところはたくさんある。

この本は長年ブラジルに住んでいて、ブラジルのことであれば一番良く知っている人がかいているので、すべての情報が本物だと考えていい。それによると、基本的にブラジル人は働かない民族であるということらしい。その理由は、広い平地には、降水量が多いために食べものがなんでも揃っていて、下手に働かなくても食べものが簡単に入るからなのだそうだ。そこへポルトガル人が植民地化しようとやってきたときに、あまりにもプランテーションとして働かない人たちばかりだったので、黒人をアフリカから連れてきて、その人たちに働かさせたというのが、現在のブラジルの黒人のルーツになるということを知って、なるほどーと分かった。しかしポルトガルはアフリカに植民地を持っていなかったために、フランス人やイギリス人から黒人を買っていたことは、なかなか生々しい情報として驚く。そんなポルトガルも、現在では西ヨーロッパ人とみなされるが、基本的にフランス人から見て「ピレネーを越えるとアフリカだ」と言っているように、スペインとポルトガルは実はヨーロッパの生粋な文化とはちょっと異なる。長いことアラブの影響があったため、ヨーロッパ文化とアラブ文化を融合した気質を持っている人たちなのだということを知る。そのままブラジルにポルトガルを持っていったために、いろいろな弊害が出てきたということもこの本を見ればよく分かる。

さらに日本人移民についての言及も書かれているので興味が湧く。はっきりいえば、移民でブラジルに渡った人たちは、表向き「自主的に移民として夢を見て移住した」となっているが、実際にはアジア人の奴隷貿易だったということなのだそうだ。ブラジルにおける日本人は勤勉であり真面目だったため、当時のブラジルを収めていた政府には大歓迎されたのだが、それを嫌がったのが働かないブラジル原住民だったというのが笑える。第二次世界大戦のときに、特にアメリカでは排日運動が高まって、日本人は一箇所に収容されるようなことはあったのだが、同じ連合国に入っていたブラジルでも最初は排日運動が起こっていたのだが、そこは面倒くさがりのブラジル人だったために、その排日運動も「適当」に寛容だったようで、結局誰も拘束されたというわけでもない歴史だったことを知って奥深い。

ブラジルのことは知れば知るほど、なかなか味があり、こんな国が経済成長するのがとても不思議でもある。一気に読める本でもあるのだが、何度も読み返しても楽しいと思うので、もう一度あとで読んでみたい。書かれたのは1994年と随分古いのだが、そんな簡単に民族の気質というのは変わらないので、今でもだいたいブラジル人の持つ気質や文化や風土は同じだと思って良いはずである。本来なら2800円もするものが、ブックオフだと100円で売っていたので、思わず買ってしまった本ではあるが、買って本当に良かったと思う。ただ、単行本ではなく文庫本として売り出して欲しいと思う。

ブラジル学入門
中隅哲郎(著)
無明舎出版
ISBN-13: 978-4895441261

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