クリスマスの時期はだいたいシンガポールや台湾に避寒のために渡航してしまうのがここ数年の例年行事になっていたのだが、今年は趣向を変えて、どこか鄙びた温泉宿でのんびりするのも良いかなと思っていた。そこで選んだのは、以前行ったときに、想像どおりの鄙びたさだったことが印象として残っていた湯西川温泉を選んだ。
湯西川温泉に行くには、東武鉄道で鬼怒川温泉まで行き、そこからバスに乗り換えていく場合でもいいし、鬼怒川温泉経由で湯西川温泉駅まで電車で行き、そこからバスで行くという方法がある。どちらも同じバスが通るので、どちらの駅を使ってもいいと思う。それにバスの本数が思ったより少ないので、事前に時間を調べてから行くべきだろう。鬼怒川温泉から乗ったほうが、始発なので、バスの中で席に困ることは無いはずだ。とはいっても、どんなに混んでもバスが満員になることはこの路線に限って言えば無いだろう。ちなみに、鬼怒川温泉から湯西川温泉まではバスでだいたい50分くらい。湯西川温泉駅からだと20分くらいだと思えばいいだろう。
しかし、このバス路線からの風景は、本当に姥捨て山に連れて行かれるような心境を思い起こさせるものだ。なぜなら、途中、バス停が結構たくさんあるのであるが、そこを利用する客はまず皆無である。それとなんでこんなところにバス停があるのか?というようなバス停もたくさんある。ほとんど途中で乗り降りする人が居ないので、バスはだいたい定時に到着する。バスからの風景として、途中ダムの地域を通るのであるが、ここは絶景だ。無味乾燥というか心を無にすることができる場所だと感じることができる。
さて、終点の湯西川温泉に近づくと民家がちらほら見えてくる。湯西川温泉の入り口あたりには小奇麗な新しそうな家がたくさん立っているが、これはどうやら道路工事のために立ち退きを迫られた人たちが代わりに建てた家のようである。工事による一時的な成金が増えた表れだろう。しかし田舎とはいえ、かなり大きな家ばかりだ。こういう田舎だと、土木工事くらいしかまともな職というのがないためなのだろう。田舎の人たちが「うちにも道路を作ってくれー」とか「新幹線をどうしても作れ-」と騒いでいるのは、まさしく土木工事による一時的な収入が欲しいために騒いでいるものであって、建設後のメンテナンスのことや利用方法なんていうのは誰も考えていないというのは一目瞭然だ。たまにこういう田舎に来ると、日本の経済の縮図を見ることができるので勉強になる。
湯西川温泉は関東のなかでも「平家落ち武者の集落」として有名な場所だ。だから、いまでも町の秘密の掟というのは結構たくさんあるようだ。基本的には敵方・源氏に見つかっては困るので、目立つものを掲げることは許されない。例えば、鯉のぼりなど。昔ながらの伝統・風習を守りつつ、現代までその流れを絶やさずに生活していることが体験でき、かつ都会の騒々しさから逸脱できる場所ではあるので、のんびり出来る場所としては打って付けの場所だ。近年、その交通の便と雰囲気がだんだん知られるようになってきたようで、徐々に観光客の数が増えてきたようである。一時期はどうしようもなく観光客がこないので、台湾人のような外国人観光客を相手にしか商売をしていなかったようである。
さて、今回利用した旅館は、湯西川温泉の中でも上流に位置し、源泉を有する「上屋敷・平の高房」というところを選んだ。源泉を有するというところに魅力があることと、ネット上で調べてみると、他に有名な旅館に比べて定評が高かったからである。ただ、ここ通常車で来る人が多いために、バス停からはめちゃくちゃ離れている。しかし、バスで来る客のために、バス停まで無料の送迎があるのでこれを利用するのも良い。バスに乗る前に、「何時のバスに乗るので、宜しくお願いします」と電話をしておけば、バスが到着する時間に合わせて、バス停で待っていてくれるので便利だから。
この旅館は、旅館という名前に似合わず、敷地面積・建物の広さといったら、かなり広い。それに創業はまだ30年程度だというにもかかわらず、内部は新しく建てたように、古めかしさは全然匂ってこない。建物の外壁もそうであるが、部屋の内装も古めかしく感じず、かつ露天風呂のところも問題ない。頻繁に改装工事を行っているのだろうというのが想像できる。
入り口を入り二階へ続く階段を上っていくと、広いロビーに出くわす。入り口正面には、那須与一が扇の的を撃とうとしている、屋島の戦いの風景が壁絵としてデカデカと掲げているので、その大きさで吃驚する。それとロビーも、なぜこんなに天井が高いのか?というくらい高いので、これも圧倒される。
各部屋は、平家の名将かまたは源平合戦にちなんだ名前が付けられている。泊まっている間で平家の武将になった気分になれる。しかし、部屋の中は至ってシンプル。最低限必要なものは全部揃っているので、カバン一つでフラットきても問題なし。ただのんびりするつもりでこないと、周りに何も無いし、出かけるにも町の中心地に行くにも不便なので、部屋の中から出ないことを前提にした過ごし方を想定していないと、退屈で仕方ないかもしれない。
お風呂は、部屋の中にはもちろんある。しかしこちらは循環湯なので、旅館の人も言っていたが、「利用しないほうがいいです」とのこと。他人に裸を見られたくない外国人が使うようなのだが、日本人はこんなところを使わないようにしよう。旅館の中には内風呂があり、こちらは良し。だいたい8人くらいが同時に入れるくらいの浴槽だ。露天も併設されているので、できれば露天のほうに入りたいものだ。露天のほうは天然なのであるが、中にあるほうは湯沸しになっているようである。その他に、一度建物を出る形式になるのだが、貸切の露天風呂と、共同露天風呂というのがある。お風呂巡りをしているだけで、この旅館の中では充分楽しめるだろう。貸切風呂のほうは、1時間おきに予約できるし、あまり利用者が居ないようなので、思い切って予約したほうがいい。事前に予約する必要はなく、旅館に到着し「今から行こうかな」と思ったときにフロントへ電話すれば良い。
料理は部屋だしではなく、全員大広間のところで食する。その際、グループごとに囲炉裏が用意されており、囲炉裏には串焼きされているものが刺さっているので、昔ながらの焼きものを楽しみながら食べることができる。もちろん、焼き物以外の料理も膳に詰まれているので、それを食べるのも良し。しかし、やっぱりこういう旅館にきた場合には、量の問題がある。どれも美味いので、「美味い美味い!」と食べていると、気付いたときには食べ過ぎて、満腹太郎になってしまう。オプションで、鹿肉や熊肉も食べられるので、挑戦したい人は食べてみるのがいいだろう。自分たちは、1日目は鹿肉で、2日目は熊肉を食べてみた。鹿肉は、以前オーロラを観に行ったときにトナカイの硬い肉を食べたのだが、それと同じように脂身が全く無いので、硬くて味気が無いなという感覚がやはりあった。熊肉のほうは、やっぱり食べている種類が豊富のせいか、肉がとてもジューシーで美味い。いろいろな雑穀をたべている動物ほど、肉は美味いといわれるが、熊ほどなんでも食べるものは居ないだろう。
そういえば、気になったのが、ロビーにあった雑誌類。ロビーで待っている間に読むようにと、いろいろな本が用意されているのだが、そのなかに「温泉学会」というのを発見。中を読むと、温泉に関するいろいろな論文が書かれていたりしていた。注目した記事としては「『天然』温泉の定義を探る」という記事だろう。記事の中で、湯の温度が適温である42度くらいで地上に吹き出るのはかなりの稀であり、通常はそれよりも湯温が高いか低いかのどちらかだ。したがって、温度が高い場合には水を増して温度調整をせねばならず、温度が低い場合には湯沸しして丁度良い温度にしないといけない。水増しをすることによって、温泉成分は変わってくるから、これを天然というべきなのだろうかというようなものである。秘湯を誇っている温泉だから、こういう学会にも参加しているのだろう。
のんびりしたい人には絶対お勧めの温泉地なのが、ここ湯西川温泉だ。公共輸送機関で移動できるところがなんとも良い。
ちなみに、このあたりの集落の人はもちろん平家の末裔の人たちなのだが、名前はそのまま「平」を名乗っているのではない、平家であることがばれたくないという昔からの風習があるために、「平」の漢字を変形させて、てっぺんの「一」の字をずらして「半」にし、人偏をつけて「伴」という苗字を使っているのが一般的らしい。ちなみに、湯西川温泉では「伴久」と名乗っている旅館がたくさんあるのだが、そのオーナーは全部「伴」さんである。旅館に置いてあった女将紹介本に書いてあった。なるほど、他にも平家であることを隠すために苗字を変えている家系は結構多くあるようだ。
バス時刻表 : http://www.asahibus.jp/html/time/yunishi_kinu.pdf
上屋敷 平の高房 : http://www.takafusa.jp/
温泉学会 : http://www.miki55.com/onsengakkai/
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