2009/07/26

アジア新聞屋台村

よくぞここまで変な人たちに囲まれた生活ができるなーと、羨ましく思う人をたまに見受ける。そういう人は、本人にももちろん他人を惹きつける魅力があるからこそ、磁石のように勝手に他人が寄ってくるということもあるのだろうが、それだけでは集められるわけがなく、寄り集まってくる奇人変人凡人から、奇人や変人を嗅ぎ分ける能力があってからこそ、選ばれた人間が「変人」の称号を得て、あえてその当人の知り合いの中で特別な存在になりえるのだと思う。

著者・高野秀行はまさしくそんな変人を嗅ぎ分ける特殊能力を持った人なのだと思う。本人も「誰もしたことが無いことをやってみたい」という根っからの冒険家であるため、他の人から見れば、いい歳したのに、ちょっと落ち着けよーっと思われることには憤慨しつつも、自分が楽しければ人生は良いのだという持ち主であるため、ちょっと変わった人でもある。そんな変わった人でも、さらに上を行く変人だと認めさせるような人が周りに出現すると言う事は、著者にとってはとても刺激的な人生をさらに上塗りしてくれるいい要素を発見したとして興奮したに違いない。

本著「アジア屋台新聞村」は、実際に起こった日々の事実を単なる綴ったノンフィクションドキュメンタリーであるが、高野のほかの本に出てくるようなどこかの海外の都市での出来事ではなく、場所が東京で起こった事実であるというのが不思議だ。まだまだ東京にもこれほどの奇人変人が集まる場所が残っているというのがとても不思議だった。彼がひょんなところから、新大久保のコリアンタウンに存在する在日外国人向けの新聞を発行している新聞社に勤務することから話がめちゃくちゃになってくる。

この新聞社で働いているひとたち、つまり登場人物たちが個性豊かなのである。新聞社の社長は編集・発行という作業が基本的にどのように行なうべきものかという基礎がなく新聞発行をしている人で、いかに他人から金を集めることにしか興味を持っていない典型的な台湾人女性。新聞発行をしている対象言語が、英語というメジャー言語ではなく、タイ語、ビルマ語、インドネシア語、台湾人向け中国語と、ちょっと特殊な言語での発行ばかりを行なっている。その言語をこの社長が全部堪能かというと全然そうではなく、彼女の母国である台湾中国語しか読めない。その他の言語は、在日のその言語を母国語としているボランティアによって作られている。それもほとんどが、ネットに掲載されているようなネタをそのまま現地語で取り寄せて切り貼りしているような新聞なのであり、新聞の記事を選んでいるのが、ボランティアで雇われている、インドネシア人、ビルマ人、タイ人なのである。それでもまともに新聞発行しているのは韓国人の女性が記事推敲と発行の手助けを生真面目にやってくれているところに新聞としてのまともな活動が出来ているのである。

その各人種からの混在の集団も、多数の人がやっているわけではなく、1言語1人で担当しているというから凄い。よくよく見ると、このマイナー言語を主とした新聞発行の理由は、マイナーであればあるほど広告が取れやすいからなのだそうだ。いちおう東京をちゅうしんとして各都市に海外からやってきて、日本で商売をしている各国の人が居る。その人たち同士の情報交流ということと、そのコミュニティに参加したい日本人との間は新聞を介して知り合いを作らせるというのに役立っており、その宣伝として各会社から広告費を徴収できる読んだ台湾人社長の読みは当たっているのだ。それに共感して「これはおもしろい」と思い、刺激を求めるのに躍起になっていたところに飛び込んだ高野はネタ探しとしていいものを拾ったのではないかとおもった。

詳しい話は本を読んでみればわかるが、一気に読んでしまえるほど文章に勢いがあるし、まだまだ変な人たちが出てくるのではないか?とわくわくさせてくれるような文章だから、楽しくなる。もっと多くの人に読まれてもいいと思うのだが、こういう書物は、ある種の変人たちにしかやはり共感しないのかもしれない。平平凡凡に生活している人たちにとっては、そんな不安定で怪しいところに乗り込んでいくなんて、とても勇気が無いとおもうかもしれない。ただ、海外に行っているわけでもなんでもないのに、海外に居るのと同じようなドタバタ劇を体験できるなんて、NOVAなんかにいくよりよほど面白いのではないかと思う。あとこの本を見て思ったのは、日本は、結構たくさんの国の出身の人たちが住んでいるということと、その人たちのコミュニティに対して、普通の日本人はほとんど無関心でしかないということ、言い換えれば、同じ日本の中に居るにもかかわらず、あまり日本人集団と外国人集団の交流というのを密にしていないということなのだということが良く分かった。マイノリティたちはマイノリティたちで団結して、いかに自分たちの生活を廻していくかということを考えているということだ。

日本で生活している外国人ほど、バイタリティ溢れて活動している人たちは居ないと思う。日本人はちょっと最近自信を無くしている人が多いのか、普通に(普通ってなによーっとおもうが)生活していたいとか、新しいことに挑戦したいという気が起こらないとか、文句ばかり言っていて自然に生活向上できることを望んでいるとか、高望みばかりしている人が多いと思う。文句を言うなら動けと、彼らを見ていると、文句ばかりを言っている日本人には言いたくなる。金のためでも、刺激のためでもなんでもいいのだが、もっと前向きに人生を楽しもうと眼を向けるというのが、本来の人間らしさなのではないかとおもう。

良い刺激をもらえた本を読んだなとおもう。

アジア新聞屋台村 (単行本)
高野 秀行 (著)
集英社 出版
出版日: 2006/06

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