2009/07/26

日本人が知らない「日本の姿」

不快に思う書物というのは滅多に出会うものではないし、不快に思うのは、読者の環境や思想と書物に書かれている内容にあまりにも乖離があり、その内容が読者の神経に触るようなことの場合に多いにある出来ことだとおもう。同族の人に指摘されることは、大いに勉強させられることなのだと思うが、自称・同族と言いつつも、同族であることを不愉快に思うようなことを書かれているようなことを言われると、これほどむかつくことは無い。そういう書籍に久しぶりに出会ってしまった。

胡暁子というタイガーパームの胡財閥に嫁いだ女が書いた書籍「日本人が知らない『日本の姿』」というのが、副題として「シンガポール財閥総帥夫人からの警鐘」なんて書いていること自体が、もう不愉快だ。なぜ不愉快かというと、そこまで肩書きを全面的に出さないと己の主張がまともな事象であると主張できないのかというのが、ありありと見えてきてしまったからである。読む前からなんとなく不愉快さは伝わってきたのだが、どんだけ不愉快なものが掲載されているのか、まともな値段を払ってまで読みたいとは思っていなかったため、いつものようにebookoffで中古本が売られるまで待っていようとおもっていたら、出てきた、出てきた。元の価格が1500円だったが、売れないのか105円で売り出しを発見。100円くらいなら途中で読むのを止めてもどうでもいいやという気持ちで購入。

ただ全面的にこの本を否定するつもりは無い。ただ言いたいのは不快だということだけ。日本人が海外に行って行動する際に基本的に身につけておくべき事象やマナーについては、一般的なことを言っていると思うし、むしろ憂いすべき点を指摘しているのはありがたいと思う。もちろん、海外に出る前に日本人である上で、日本文化、日本の歴史、日本の基礎知識を持っておらずに海外に出て、海外の人に接すること自体が馬鹿だというのは同感である。しかし、不快に思うのは、視点が中国人の眼でしかモノを見ていない点であろう。現地の中国人と結婚し、中国人が多いシンガポールを生活と事業の中心拠点としているから中国人の考え方が身につくのは理解するとしても、その中国人の視点でしか物事を見ていないこと自体が腹立たしい。つまり、中国人の考え方がすべて正しく、それに合致しない、または中国人が不快に思うことはすべて世界ではダメだというように主張していること自体が納得いかないのである。

シンガポールは当時のマライ連邦から「おまえら中国人が多いので、マライ連邦の中に入れると、なにかと不便だから邪魔」として退けものにされ、余儀なくマレーから独立しなければならかった歴史がある。そこで何も資源を保有していないシンガポールが裸一貫で頑張ったことは歴史的に認める事実であるが、その頑張ったことが中国人が偉いから成功したのだというような主張をされると全く可笑しな話だ。東南アジアは経済的には現地の民族より、中国南部から移民として渡った華僑が牛耳っているのは事実である。マレーシアでもフィリピンでもタイでもインドネシアでもそうである。中国人は金に対する執着心で、経済的にのし上がってきたという事実があるため、各国で経済をコントロールしているくらい華僑の勢力が強い。それゆえ、各国の主要民族は中国人のそういう金持ち主義と金を自分達だけ儲けて、他民族に還元しないという性格に対して嫌気があるのも事実で、それが東南アジアの基本的民族間の紛争に繋がっているのを物語っている。だいたいの問題の元凶は中国人が起こした行動に反発するために、地元民族が立ち上がって闘争を起こしていることを、この著者はどれだけ知っているのだろうか?

シンガポールの場合、首相や元首相とその側近の親族だけによる同族企業が、国の主要機関を牛耳っているため、誰も首相とその関係者に対して文句が言えない。情報や報道についてもすべてシンガポール政府が制御しているために、シンガポール政府および同族企業に対して批判的な記事はほとんど見ることが出来ない。同族企業というのは、首相の親戚類は当然のこと、首相に頭をさげて懐に入っている人間達も同様だ。タイガーバームを作った胡文虎は客家系の中国人であり、同じ客家のリー・クワン・ユー現上級相とは親しい関係である。中国人の場合は、同族・同地方出身者たちは互いに協力する幋の繋がりが強い。香港拠点からシンガポールに拠点を移したこともリークワンユーに関係するくらい、もう政府の中心人物になっていた。

そういうような環境の一族に嫁いだ人間が、中国人の考え方で、東南アジア全体および世界全体を述べること自体が変な話であり、「元」日本人だったから主張していますなんていうような言い方自体が気に食わない。すっかりシンガポールの国籍を取り、シンガポールでの肩書きを得ることに注意を注いでいる人間が、世界で活躍しようとしている日本人全体を述べること自体が変である。中国人的考え方がいかに世界では嫌がられているのかということをもっと知ったうえで、自身の主張を見直してもらいたい。

著者の中で、「会社の中で、たまに『あのお馬鹿チャンは・・・』と使っちゃうのは、愛情を注いで言っているだけのこと」なんて弁解をしているが、いくら会社の社長だからといっても、面子の社会である中国人社会にとって、本人の目の前で「馬鹿」と罵ることは、いくら愛情をこめているとはいえ、中国人の自尊心を傷つけることになるため、あなたはどれだけ長い間中国人社会の中で生活をしていて、それをわかって居ないのだ?と逆に問いただしたくなった。社員は社長の一言で、いつ首切りになるのか分からない。会社の中では社長が一番偉いわけで、誰も社員は社長に対して「社長、それは良くない」と言えるわけがない。もっというと、彼女の会社は政府と直結している会社でもあるわけで、そんなところで憤慨的な主張をしたところで、「嫌だったら辞めたら?」と逆提案されるだけがオチであるため、誰も文句が言えないのだろう。すっかり殿様状態になっていること自体を著者は全くわかっていない。

そんなヤツが日本人はこうするべきだなんていうのは不思議だ。また、全面的に賛成だというようなことが言える日本人が居たら、きっと頭がおかしいに決まっている。

日本人が知らない「日本の姿」
胡 暁子 著
小学館
2004年2月1日出版

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