2013/07/27

南蛮のみちⅠ・Ⅱ(書籍)

 
司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズはとても好きなシリーズ本ではあるのだが、その中の「南蛮のみち」は、シリーズの中でも珍しく2巻構成になっている。「南蛮」と書いているのは日本・日本人から見た西洋のことであり、それは主にポルトガルのことを指していた。だから、ポルトガルのことが書かれている本なのかなーと、実はポルトガルに渡航する前に思っていたのだが、実際に買ってみて読んでみると、この2冊はイベリア半島の2つの国のことを書かれていることに気づく。

しかし、国全体のことをフォーカスしているのではなく、日本に影響を与えた南蛮ものといえば、フランシスコ=ザビエルとポルトガル船のことであり、司馬遼太郎はそのなかでもザビエルとその周辺に関するものを中心に、探求しているときに感じた現イベリア半島の人たち、および過去の影響と現在の没落振りというのを表現している。もう1つスペインとポルトガルという国ではなく、ザビエルを通して、独自文化をいまでも保持しており、ヨーロッパの中でもとても神秘的と言われている地域についての民族性と文化についても紹介している。

それにしてもザビエルについては、イエズス会に属している人というのは知っていたのだが、イエズス会というのは結構昔からある学派であり、そこに単に属しているだけとおもっていた。しかし、ザビエルはそのイエズス会の創始者の1人であり、本人は「誘われた」形でメンバになっていたというのを知ったときに、へぇーと思ったのは言うまでも無い。誘ったのは同じバスク出身であり、軍人出身であるイグナチオ・デ・ロヨラ。軍人は王のために戦い、王のために死ぬ人生であるが、戦時中に負傷してしまい軍人としての役にたたないことを知った自分を何かに役立つことは無いかということから、なぜかキリスト教神学に目覚めてしまうというのも凄いことだが、そのときに、無学の状態からバリに留学し、キリスト教の真髄とはなんなのか?というのをいちから勉強しなおすという努力家でもあることを知った。だいたいもともと軍人として働いていたということはそれ相当の年齢はたっているわけで、その段階から全く異質のものに傾倒していくという心意気が凄い。が、そのときから既にキリスト教を通じて、ローマ教皇に仕える軍人的気質であるべきだという考えを持っていたことは素晴らしい。それに共鳴した、先に神学の道をマスターしていたザビエルが洗脳されてしまうというところも、なんとも漫画的なところがあるのだが、それは実は事実だから、歴史って面白いと思う。

バスク人気質とカトリックキリスト教の結びつきがイエズス会の基本的考え方を形成されていたに違いないと思うのは、イエズス会の基本的行動指針が、①高等教育の普及、②非キリスト教徒に対する宣教活動、③プロテスタントからカトリックを守ることである。特に日本では、②のことだけが知られていて、その一環としてザビエルが荒波を越えて日本にやってきたというような見方が多いようだが、あくまでもザビエルのやっていることは基本行動指針のうちの1つであるのだ。

これだけで「街道をゆく」の2巻構成が終わってしまっては、キリスト教のことだけで終わってしまうところだが、ちゃんとスペインとポルトガルの2つの国における状況も盛り込んでいる。先にポルトガル編を読んでしまったのだが、そのときにはなんとつまらない内容なんだろうと正直に思ったのが感想だ。なにしろ、ちょうどポルトガルに渡航するときに読んだということもあるのだが、旅名人ブックスなんかで先に知っているポルトガルよりも内容が文字だけしか書いていないのに、想像力を書き立てるような内容に仕上がっていないのである。司馬遼太郎はポルトガルに対してはとてもつまらない国であり荒廃的な場所だと映ったのだろうか。目に見えているものから妄想的に繰り出される司馬遼太郎節というのがポルトガル編に入った途端にパッタリ消えてしまうのである。もちろん、ポルトガルのなかを案内してくれるポルトガル人および在住の日本人が登場はしてくるのだが、ポルトガルの良さを全く引き出しているような内容になっていないのが正直悲しい。
そのかわりに前半はスペインのことに関する内容がメインになるのだが、こちらのほうはザビエルを通して見えるスペインの世界、といってもバルセロナやアンダルシアのような華やかなスペインではないのだが、国家としてフランスとスペインに分けられてしまった北部スペインのバスクが中心ではある。バスクはスペインでもなければフランスでもない。バスクはバスクであるという言葉が印象的だった。バスクはヨーロッパのなかでも特殊であり、なんとなく神秘的なところであることは言うまでもないのだが、日本でもあまりまだ馴染みの無いところだからそう思えるのかもしれない。しかし、ヨーロッパ人からみたバスクというのはどういうところに見えているのだろうか?それを「南蛮のみち」は少し垣間見せてくれているのではないのか。それもザビエルという視点を使って。

街道をゆく〈22〉南蛮のみち(1)
街道をゆく〈23〉南蛮のみち(2)
著者:司馬 遼太郎
文庫: 380ページ(1)/ 234ページ(2)
出版社: 朝日新聞社
発売日: 1988/10(1)/ 1988/11(2)

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