2015/08/02

旧日向別邸(熱海)

熱海はずいぶん前から温泉保養地として有名だったので、著名人の別荘がたくさん存在する。その別荘地跡は、だいたいいまは熱海市の重要文化財になっていて、見学することが可能だ。アジア貿易で財を成した日向利兵衛も別荘を熱海に建てた一人。その日向利兵衛が別荘を建てたのは、熱海駅の南側にある海が見える崖の中腹。そこに日本家屋を建てた。そこまでなら、普通の金持ちが建てた別荘として、後世にそれほど注目はされないことだろう。しかし、現代にまで丁寧に保存されて重要文化財になることになったのは、ドイツの超有名建築家であるブルーノ・タウトが唯一日本に残した建築物だからである。

ブルーノ・タウトといったら、戦前のドイツをはじめ、世界中でも超有名建築家として名を馳せた人であり、ドイツ国内にタウトが残した数々の建築物は、その機能性・デザイン性から考えて、群を抜いて洗練されているものであり、現代でもその建築物は残っている。特に、集合住宅やビルの建築としては結構多く残っている。しかし、晩年はヒトラーのナチス党に目をつけられていたことにもより、ドイツでの活動は満足するものができなくなった。ちょうどそのときに日本からお誘いがあり、日本旅行をする。このときに、日本の建築物をたくさんみて、かなり感動を受けて、いままでのタウトの建築センスにさらに一歩エッセンスを加えることになったと、後日記載された著書に記載されているようだ。

そんなタウトもドイツに帰っても仕事ができないのであれば、日本に残って仕事らしいものをしたいと思うのは当然であるが、満足するよな建築の仕事はまったくなく、家具やインテリアのデザインに終始することになる。そんなときに日向利兵衛から声がかかり、熱海の別荘をなんとかできんかと言われ、タウトは喜んで設計と構築にかかるわけである。そうやってできたのが、現在残っている日向利兵衛の別邸というものである。
正確に言うと、地上部分における家屋はブルーノ・タウトの設計ではない。地下室の部分についてを担当したのがタウトである。地下室といっても、ここは熱海の崖の中腹。一般的な地下室は四方が壁になっている真っ黒な部屋を想像するところだが、崖に作られた家の場合は、1つの階が増えた普通の部屋となるのである。当然、窓もあり、庭もできる。そこをタウトが手を入れた。もともとタウトが設計する前に、地下室は存在していたのだが、あまりにもつまらない一般的な地下階になっているので、それを概念から全部ぶっ壊そうとした。それも、タウトが京都でたくさん見学した日本家屋をタウトなりに咀嚼した内容を反映しようとしたものだった。

できあがった地下階については、日本人的感覚からすると、ちょっと変な部屋だなーとおもうのだが、それがひとつひとつ面白い。まず、地下階の全部の部屋の壁をぶち抜いて、3つの部屋が全部見通せるようにしたところもすごい。また、窓というのを、ひとつの絵画の作品とし、その作品は海の景色という構図を見えるように窓を大きくしたということと、天然の光をたくさん入るようにしたことだ。インテリアとしても、入り口の階段細かい芸当を見せてくれる。触ると折れそうな手すりはもっとも代表的なものだが、天井から吊り下げられている電球の羅列は、日本の祭りに見られる縁日の屋台とも、イカ釣り漁船の電灯ともいわれるくらい、これでもかーと電灯が釣り下がっている。部屋にそんなに光は要らないだろうとおもわれるが、これもまたデザインのひとつであり。現在は使い物にならないのだが、修理して使えるようにするには、結構な金がかかるらしい。2つ目の部屋はひな壇のような階段状になっている部屋を作っている。でも、個人的には趣味が悪いデザインだと思った。なんとなく吉原の花魁がひな壇として坐っていそうな感じのデザインだし、なんといっても床の色が朱色というのが気に食わない。それでも、おそらくドイツでも見ることが無い日本の神社や宮家の建築をみたときに、これを採用しようと思ったのに違いない。階段も段差がそれぞれ異なっているのは、こじ付けとして「どこの段から見ても海が見えるように配慮したもの」と解説の人が言っていたが、個人的にはたぶん「適当に作った」と思っている。
これらの地下階については、予約をしないと見ることができないので、事前に予約をする必要がある。そして、好き勝手に見に行けるわけじゃなく、解説員の人と一緒に建物ないを廻るということになっている。あと、子供の入館はNG。なぜなら重要なインテリアを勝手に触って壊すかもしれないからということからだ。子供は何でも触ろうとする。そして勝手に騒いで転んだりして壁にぶつかったりする。それを避けるためということだ。そして、館内での撮影は全面禁止。これは写真に撮りたかった。黙って隠し撮りでもしたいところだったが、それはやっぱり約束なのでできなかった。残念。

「日本で訪れておくべき建築物」の中に、この旧日向別邸は掲載されている。それほどブルーノ・タウトの建築物というのは貴重なものである。そして、驚くべきことは、日向利兵衛のあとに民間会社に買い取られて、そのときに保養所として位置づけられることになったのだが、これがこの会社のすばらしいところで、一度もこの建物を保養所なのに使わせず、大切に保存していたというから、この会社の先見の明はすばらしい。そのおかげで現在でも、ブルーノタウトが作ったそのままが残っているのを見ることができる。一度も手直しをしていない状態で見られるというのは、使われなかったからということだ。民間会社のあとは東京の一般女性がこの建物を買い取り、そのまま熱海市に寄付されたということらしい。ただ、メンテナンスのための費用というのは、熱海市が盛り上がってきたといっても、それなりに費用がかかるので大変だと思う。観覧料だけではメンテナンスができるとは言えない。いろいろな人からの寄付が必要になってくる。が、熱海市が絡んでいると、お役所なので宣伝がへたくそだから重要性があまり一般人に伝わっていない。もっとこういう建築物はメンテナンスが必要で、そのために金が必要だということをアピールするべきだとおもう。駅にいるインチキ募金収集のやつらなんかに金を渡すくらいなら、熱海市に寄付したいくらいである。

旧日向別邸
URL:http://www.ataminews.gr.jp/kankou/11.html
住所:熱海市春日町8-37
開館:毎週土日・祝日
入館料:大人300円

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