高野秀行のアグレッシブさにはいつもながら惚れ惚れする。どうして、こうも男は刺激を求めて、時はからみると「バカだなぁ~」ということに対して熱中するんだろうか。だからいつまでたっても、男は少年とか子供だといわれるゆえんだと思われる。それも熱中する対象物がUMAということになったら、ほとんどキチガイの世界にどっぷり嵌っているとしか思えない。
元々冒険好きだったことと、海外に行って怪しい人たちと交流することが大好きな特異体質の持ち主であるために、怪しさ満点の未知の物体を探しに行くという話しが舞い込んでくると、すぐに乗り込んでしまうバイタリティは脱帽だ。嫁もいるのに、この無鉄砲な行動は、よほど生活に余裕がないと道楽はできないと思われるのだが、他人事ながら、一体そんなにも収入を気にせずとも生活ができるのだろうかと気になる。作家としての本人の収入もどの程度のものかわからないが、彼の書く書物は、かなりマニアックであるため、冒険好きな人しか読まないだろうと思う。小説といえども、フィクションではなく事実に基づくどたばた劇を描写しているものであるから、通常の小説みたいに、脳みその中で妄想指数をバンバン高くして読みふけるというものではない。ましてや、通常の旅行記のような読み物でもないので、まず、どこどこの店ではどんな良いものがあったというような紹介など皆無だ。
今回の「怪獣記」についても、一連の冒険・探検シリーズの一巻であり、場所はトルコである。トルコで宿探しをしているときから、彼らは地元民の注目の的になってしまうのである。なにしろ「何しに来たのか?」と聞かれたら「UMAを探しに」と返答するので、当然地元民は「そんなもんいるわけねぇよ」という言いながら、遠く日本から頭のおかしい奴らがやってきたとバカにする。旅館の店主も、毎日旅館に戻ってくるときに「今日は見つかったか?」と半分バカにして聞いているところも、容易に想像ができる光景だ。
また、たまたま今回の探検が、前回トルコを訪問した際に、現地コーディネート兼ガイドをしてもらった人と、運よく再度再会してしまい、それを機会に現地での幅広い活動ができたというのは偶然が必然となったとしか思えないような話だと思った。そして、人のつながりとは怖いもので、そのコーディネータの中の1人が、現地の新聞社の人だったというから笑える。となると、日本からわざわざUMAを探しにやってきた奇特な日本人が、いまこの土地で調査をしているというニュースが、トルコの全国新聞に載ってしまうという快挙を得てしまう。そうなると、新聞の力というのは大きく、今度は、著者がどこにいっても、「新聞で見た人だ」というのを皮切りに話がどんどん膨らんでいって、スムーズにかつ、たまにはバカバカしく思うようなものまで情報が転がり込んでくる面白さは、天性の素質としか思えないほど豊かな条件が舞い込んでくる性格の持ち主らしい。
だいたい、日本から一緒にトルコに渡った人が、たまたまトルコ語を勉強しようとしている学生を捕まえて、トルコ語を習得するのと、資料探しをさせるという一石二鳥的な依頼をすることで、トルコ語がわからなくても現地の情報がその人を通して入ってくることになるなりそめもおもしろい。また、キーワードとなる人が書いた著書が、こんな日本になんかあるわけがないとおもって探していたところ、意外なところに存在していたことと、その本の中に書いていることが、UMA目撃者の一覧と、どういう状況で観て、どんなものだったかという感想を、すべての個人情報を全部記載して載せているという本だったことが、彼らの現地での行動のバイタリティを引導したとしか思えない。つまり、参考資料かつ現地での行動指針として、そこに書かれていた人たちにインタビューすることで、実態を徐々につかんでいこうとすることになる。そして、そこに記載されていた個人情報が、驚くほど正確なものだったということもわかって、二度驚愕するということがわかるのも面白い。日本だと絶対そんな本は存在しないことだろうし、該当の人の存在さえ、フィクションなのではないか?と思うようなことも出来てしまうようにも思える。
結局のところ問題のUMAは見つかることはなく、クルド人問題で揺れるトルコの歴史的な事情を隠すために、UMAという良くわからないものを持ち出すことで、話題を分散させてしまおうということの政治的な駆け引きのためにUMAは使われていたのではないかということがわかったようだ。確かに、よくわからないものを緩衝材として、2つの重たい事象を和らげるというのはよくある仕組みだ。よくわかんないものだからこそ、その輪郭と詳細の情報を探求してはいけないタブーなのであり、詳細をさぐると、2つの事象のどちらかの核心部分に触れてしまうというものの典型的な例なのだろうと思われる。
単なる冒険物の記録作品というわけではなく、もちろん記録も含まれるのだが、それ以外にもトルコに起こっている深層的な事件を現地の人たちがどのように感じているのかという民俗的な視点からも考察ができる作品になっている。
文章ばかりではなく、彼らが現地で撮影した実際の写真をフル活用にして、文章ではなかなか伝わりにくい内容(たとえば、現地の人の顔の特徴など)を補う形でたくさん掲載されているのも面白い。トルコの現地に行かなくても、こういうところで活動していたのだなという想像を少し現実的な映像にすることができるのも、写真のひとつの特徴だろうと思われる。
怪獣記 (単行本)
高野 秀行 (著)
単行本: 281ページ
出版社: 講談社
発売日: 2007/7/18
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