アイヌというと、どうしても蝦夷地の未開な人たちであり、例え、その子孫であったとしても現在では「アイヌ出身です」というのを公に口にするのは、なんとなく自分をバカにしているように思う人が多いためか、決してアイヌであることを表立って言わないひとは多い。日本人が大好きな選民主義のためなのか、単一民族主義を貫きたいのかよくわからないが、在日韓国・朝鮮人と、社会制度から生まれた「えた」「非人」出身のひとたちと同じく、長い間日本国内ではアイヌの人たちに対して差別扱いをしてきたと思う。そんな意味で、アイヌの歴史や文化については、いまではすっかり観光地化されてしまっている阿寒湖周辺に片鱗だけしかみえなくなってしまっているために、本当のところのアイヌとは一体なんなのか?という素朴な疑問に対して「あそこにいけば、必然的に解る」という日本の場所はもう既になくなってきてしまっている。これは大変残念なことである。
それでも、アイヌは同じような領土内に居住していたために、大和からきた人間と紛争があったり、または貿易をしていることにより、なにかしら大和人と関わってきたことは事実である。純粋化をまい進したのか、それとも日本人との血縁を好んだのかは、彼らが生きていくうえでどのような選択をしたのかによるところなので、詳しくは知らない。ただ、現代の日本人から見るとアイヌは、差別的な視点から判断しているとはいえ、いつまで経っても原始的で、腰蓑を巻いて、弓と槍で獲物を狙っている人たちなのではないかというのをホンキで思っている人が多いと思う。そういう偏見的な見方をすると、本当のアイヌの人たちにとっては申し訳ないのだが、自分たちよりも格下の民族というのを常に持ち歩いていることになってしまう。
したがって、アイヌについて、そういえば、金田一京助が始めてアイヌ語の辞典を作ったときにアイヌと初めて接触があったような嘘ばかりの記憶でしかいまの日本人は思っておらず、いったいアイヌとはどういう人たちで、どんな生活をしていたのか、そして現日本人と常に隔離続けるのは不可能なので、どのような交流がお互いにあったのかというのを知りたいと思い、本書を買ってみた。アイヌの本はほんとうにどれもこれも需要がないからか高い。だから、例によってイーブックオフで購入した。今回は奮発して500円で。100円じゃないところから、ちょっと無理したかなと思ったが(といいつつも、原価は2800円)、買ってみて損はしなかった。
実際のアイヌの人たちの生活は、どういう場所に、どういう生活の生業をし、グループとしての集団生活はどのように行われ、他グループとの交流では、なにを珍重されていたのかというような、結構集団生活者が行うことを明確に分析して記載しているところに、研究者らしい報告を感じられたし、おくが深い分野だとわかった。特にアイヌは、自らも字を持たない民族であったために、記録になるようなものがまったく無い。記録されているのは、あくまでも他民族が主観的にアイヌをみた感想や商業で経験した印象を克明に書いているだけのことであるため、偏見的な見方がその中では含まれている可能性はあるのは仕方ない。あとは、住居跡などに残っている遺物をマクロ的な見方をすることで、アイヌ全体としての考え方や生き方を分析しているところがすごいと思った。
ただ、一般的にこの手の本を読むときには、どうしても学者的な要素がないと読みにくいし、一般教養の範囲を少し超えた高度な知識を持っていないと、何を言っているのか全然理解できないものになってしまう。この本も多少アイヌに関する知識を持ち合わせていたほうが内容ははるかに理解できるものだ。著者はできるだけ、無知識のひとへの説明をするような文章を書いているのだが、やはり考古学に違いものであるため、すんなり目から頭に内容が入らないようになっているのが、読んでいて少し辛いとは思った。
アイヌが中国大陸やサハリンあたりにまで渡って交流していたのはびっくりした。また、北海道=サケというイメージは強いのであるが、サケに対してアイヌは、自分たちの食料とするだけでなく、保存食として利用したり、大量に取れるところからそれを交易の一物品として生計をなしていたり、交易で儲けた金を使い、農耕生活ではないが、農耕生活者の他民族から必要物品を購入していたというのは驚いた。
アイヌの歴史―海と宝のノマド
著者:瀬川 拓郎
278ページ
出版社: 講談社選書メチエ
発売日: 2007/11
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