2006/09/04

横浜珈琲館



 横浜駅西口は、いつの時代になってもどうしようもない混雑と混沌の溜まり場みたいなところだという印象が拭えない。最近になって駅前ロータリ付近は、横浜ベイシェラトンホテルが開業し、旧三越の場所にヨドバシカメラ横浜店が開店してから、本当の西口方向は綺麗になった気がする。ところが、横浜の田舎電車である相模鉄道の改札口から伸びる西口商店街は、全然変わらない。随分昔になるが、東急ハンズが横浜にできたときには、そのもっと前にできたVIVRE 21と一緒に、横浜西口を変えていく建物になるかなと思っていたら、全然変わってくれなかった。10年位前に倒産して消えてしまった「アリック日進」という電気屋が邪魔をしていたのかもしれないが、それよりも、なんだか浮浪者の溜まり場みたいな雰囲気がどうしても消えてくれない場所だと思っていた。学生時代に一時期横浜に住んでいたことがあり、それで横浜の移り変わりは知っているつもりだった。浮浪者の溜まり場のように見えたのは、意外に西口のほうは飲み屋街がたくさんあり、ピンサロ系のような店もたくさんある。小さい歌舞伎町みたいな雰囲気が相鉄線から伸びる商店街付近にはあったのだとおもう。だから、なんとなく近づきたくない場所だという印象が前からあった。

 多少は人間的に大きくなったと思うし、元来の「変なもの好き」が高じて、たまにこの何も変化がない怪しい地域を歩いたりする。何度も来ているのにぜんぜん気付かなかった店が実はあった。それが今回ご紹介する珈琲屋である。名前は「横浜珈琲館」。普通は店のオーナーの名前かまたはオーナーの好きな名前が付けられるのに、なんとここの店は「横浜」という名前を付けている。さも、自分達が一番最初に横浜に喫茶店を作ったみせであるという主張をしているかのようである。店の入り口も、両隣が飲み屋だったりするのに、ここの店だけは、昭和30年代くらいの良く知らないがノスタルジさを感じるのである。いまどき、入り口を鉄格子のような形にしている店構えの喫茶店は無いと思う。欧米ではこういう店構えはよくあるが、日本ではほとんど見ない。

 店の中に入ると、これが「昔の喫茶店」という雰囲気がとても良い感じの空間である。入り口近くにカウンターがあり、そこではサイフォンを使っていい匂いをした珈琲を出している。コーヒー豆を煎るところから自分達で作っているのではないだろうか?カウンター内の様子は見ることができないが、匂いのしかたからすると、「真面目な喫茶店」と言える店だと思う。客層もお年を召した人から、若い人まで千差万別である。おそらくここにくる歳を食ったかたたちは、昔からの常連なのだと思う。

 メニュとしての珈琲の種類はここでは紹介できないくらいたくさんある。有名な豆の種類は当然あるのだが、おそらく店のマスター独自に作っている種類もいくつかあるのだろうと思う。本当の珈琲を飲もうとすれば、正統派の珈琲を飲めばいいとおもう。しかし、この日は友達と遊びに来ていたことも有るのだが、なぜかカプチーノを選んだ。

 運ばれたカプチーノは、イタリアのカプチーノらしいカプチーノだった。というのも、珈琲の匂いより、シナモンの匂いのほうがきつくて、一体何を飲んでいるのだろうと思うような珈琲だった。本来のカプチーノはこう言うものなのだと思う。珈琲は単体では匂いが強く、主張が激しい飲み物であるため、それをマイルドにさせるためにクリームかミルクか他の食材を使って、その強い匂いを消すことで、珈琲を飲みやすくしているものだろう。シナモンスティックを添えてくるカプチーノを提供する店はだいたい、まともな店である。安めのどうでもいいような珈琲を出しているところでは、絶対にシナモンスティックなんか出てこない。粉として振りかけているシナモンの粉末も、シナモンまがいのものが振りかけてくる場合もあるからだ。だけど、ここは本当の珈琲と再度メニュが楽しめるのが良いと思う。
 横浜にこれだけの店が存在していたことをしらなかった自分が情けない。店は随分昔から開業しているらしかった。だから、開業当時のままの雰囲気を残しているところなのだと感じたのだと思う。ここの空間にいると、なんだか時間が止まったような気がして、そのまま喧騒の世の中に戻るのが嫌になる気がする。不思議な空間だ。

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