大きな通りである New Bridge Road の表側には高いビルが建っているが、裏に廻るとチャイナタウンコンプレックス (China Town Complex, 牛車水)。チャイナタウンの一番古くて汚らしいと思っていたチャイナタウン・コンプレックスには、ウェットマーケットがあり、ごちゃごちゃしたフードコートがある場所だとばかり思っていたのだが、周りの空き地も含めてすっかり変わってしまっていた。きっと昔は、汚らしい屋台村がここに広く生息していたのだろうとは思うものを、政府が一掃したのは知っている。しかし、そのあとの見た目だけは立派な空き地の利用方法として、巨大なショッピングエリアと化することと同時に、シンガポールが中国系の民族が中心として運用されている巨大な株式国家であることを象徴するようなものが、このチャイナタウンに存在したことに、今回改めて吃驚した。マクスウェル・フードセンタとチャイナタウン・コンプレックスの間には、広い政府所有地が広がっていて、何にもないものと思っていた。ところが、ここに新加坡佛牙寺龍華院(Budda Tooth Relic Temple And Museum, 通称「佛牙寺」)という巨大で真っ赤な仏閣が聳え立っているのを発見した。そういえば、毎年シンガポールには1度は訪れていたとしても、ほとんどチャイナタウンに用事がなかったので、この存在を全く知らなかったということもある。完成したのは、2007年のウェサク祭のとき。日本だと「花祭り」と呼ばれる仏様の誕生日のときである。地下3階、地上4階(屋上も別に利用)のこの大きな建物は、シンガポール政府が威信をかけて建てたものだということを後から知る。1980年にミャンマーの壊れた卒塔婆から見つかった仏陀の歯を、この寺では収めているのだが、単にシンガポール政府も巨大な寺を建てるのでは頭脳がないと言われないために、なんとかして、世界中から仏陀に関するものを探して行き着いたものがこの仏陀の歯だったのだろうと想像できる。金ならある。金で買えないものはないと思っているシンガポール政府のやる口だなとおもった。通常、単なる宗教的な儀式であれば政府は関係しないのに、政府が大いに関係したから、シンガポールではその完成式は壮大で行われることになり、新聞報道されたようだ。この建物の各階は次のようになっている。 [屋上] 蘭花園 (Orchid Garden)、転経輪(Prayer Wheel)
[4階] 仏牙舎利灵火宝殿 (Sacred Buddha Tooth Relic Chamber)
[3階] 仏教文物館(Buddhist Cultural Museum)、仏陀舎利館(Sacred Buddha Relics Chamber)
[2階] 蘭若軒(Aranya Gallery)、蓮芯茶坊(Lotus Heart Tea House)
[中2階] 法堂(Dharma Hall)、戒光堂(Eminent Sangha Museum)、地蔵殿(Ancestral Hall)
[1階] 百龍殿(100 Dragons Hall)、円通殿(Avalokitesvara Hall)
[地下1階] 五観堂(Dining Hall)、龍華坊(Nagapuspa Theatre)
[地下2階] 駐車場
[地下3階] 駐車場
まずは1階の大ホールである百龍殿に入ってみた。こちらには、正面に巨大な金色な仏様が、これまた巨大な2体の付き添いと一緒に立っている。それも背景に金色を基調とした天の世界をモチーフにした巨大な背景画がある。それもこの日、たまたまながら、なにかの法会が開催されていたときだったようで、この大きな会場のなかには、シンガポール中かどうかは知らないが、たくさんの僧侶がお経を集団で揚げていた。もちろん、たくさんの仏教徒が経典を手に一緒にお経をあげていたのは、ここが本当に近代国家のシンガポールなのかと疑いたくなるような光景だった。将来は自分の手でつかむことしか考えられず、誰かに頼るということは絶対考えられないと考えている中国人特有の深層心理が、仏教のような精神的な守り神を欲しているのだろうかということも考えられる。もちろん、外国人の観光客もたくさんやってきているのはわかっていたが、それよりも地元のシンガポールの中国系の人たちがとても熱心にお参りしていたことがとても印象的だった。1階のもうひとつの大きな部屋である円通殿のほうにいくと、ここには、とても大きな観音様が祀られていた。英語表記の「Avalokitesvara」は観音を指すサンスクリット語である。観音様への信仰も中国系の仏教徒の間ではとても人気がある。しかし、観音様の目の前にある絨毯の上だけは、靴を脱いで参拝しなければならない。円通殿と百龍殿の間には、それぞれの誕生干支に関係した守護神である、仏教に関わるたくさんの神様が飾られていた。だから、生まれの年に関係する神様の前で、しきりにおまいりしている人をたくさん見かけた。ちなみに、各干支とその守護神は下記の通りらしい。
鼠年:千手千眼観音 (Avalokitesvara)
丑年:虚空蔵菩薩 (Akasabarbha)
寅年:虚空蔵菩薩 (Akasabarbha)
兎年:文殊師利菩薩 (Manjusri)
辰年:普賢菩薩 (Sanantabadra)
巳年:普賢菩薩 (Sanantabadra)
午年:大勢至菩薩 (Maha-Shtama-Prapta)
羊年:大日如来 (Vairocana)
申年:大日如来 (Vairocana)
酉年:不動明王 (Acala)
戌年:阿弥陀仏 (Amitabha)
猪年:阿弥陀仏 (Amitabha)よーく各々の仏の頭を見ると、それぞれが守護としている干支の動物が乗せられているので、ぜひそんな可愛らしいところを見てみると楽しいと思う。気持ち悪いことに、そういう守護神である神様の後ろの壁には、たくさんの小さな釈迦像がいっぱいに飾られているのである。これは、この寺を建てたときに寄付をした人たちが、この小さな釈迦像を購入するという手段を利用して寄付を募った結果なのであり、結果的に壁に「金百萬園 何某寄進」というのを掲げられているのと同じ役割をしている。ただそれが壁いっぱいに釈迦像なので気持ち悪く見えるだけなのだ。
このあと、上の階から各階がどんなものが飾られているかなどを見ていこうと思い、チャイナタウンコンプレックス側の入り口のほうにあるエレベータを使って、まずは屋上階のほうから上がってみることにした。ちなみに、元気な人は階段を上がってみるのもいいだろう。
屋上に上がってみると、ここが寺の屋上なのか?と本当に思ってしまうようないきなりのジャングルみたいなところに出くわす。そして、それは「萬仏閣」と呼ばれるお堂を中心に草木・樹木が植えられているようなものになっている。その光景はまさしくジャングルか、高層ビルの上にいるという気分を全くなくさせるものになっている。そして一番外側は、中国建築や日本の神社によくみらえるような、真っ赤な柱と骨組みの通路がある。屋上の中央に置かれている萬仏閣は、実はチベット仏教では良く使われるマニ車の巨大版が置かれていた。それも半端なく大きい。何でもデカいものを作ればいいんじゃないよと、1人ツッコミをしたくなるくらいの大きさだ。1廻しをすれば百万回のお経を唱えたことと同じだと言われる。もちろん何の祈りもなく、この巨大なマニ車を廻してみた。うーむ・・・かなり重い。マニ車自体はチベット仏教と同じように梵語で書かれているのだが、これは毎回何が書かれているのかとても気になるものだ。屋上から下の階に降りるときには階段を使った。さすが最新設備が揃った寺だけあって、階段には車椅子の人でも上がれるように、車椅子用の設備が備えられていた。それと、階段はクーラーの効いていない外気に触れている場所なのであるが、その階段からの風景は、やっぱりここがシンガポールだなというのがよくわかる光景が眼に前に広がる。4階は撮影不可で、仏様の歯が納められている舎利殿になっている。この舎利殿こそ、シンガポールが見栄と金を掛けて最高の設備を作ったことを自慢できるものなのだろうとおもう。秀吉が全部金で作られた茶室を作ったのと同じ発想で、天井から奉納されている箱まで、何から何まで金でできているのだ。これはさすがに吃驚したというより、気持ち悪さを感じた。中国系の人たちにとっては、良くぞやってくれたと思っているに違いないが、西洋人にとってはきっと「センスの悪い」と一言で片付けられるものだと思う。あまりこういう上の階に上がってくる観光客が居ないから不評を買っていないだけだとおもう。
3階に下りると、仏陀の生い立ちが石像などで紹介されているフロアーになっている。シンガポール中から寄せ集めてきたり寄進されたものもあるのだろうが、だいたいの場合は、この寺を作るために、各国に散らばっていた仏像・木像などを金で買ってきてかき集めてきたというものだ。どこから買ってきたかというのをすべての展示物に短いコメントで書かれているので良くわかる。でも、このフロアが一番おもしろかったと思う。それもいろいろな種類の仏様が存在し、それも、これでもかーこれでもかーと言わんばかりに集めた量に、少々嫌になるくらいの数になっているからである。たまに、なんでこんな仏が居るんだろうというような像もあったりするが、それはやっぱりヒンズー教の影響がつよく、仏もエロいところはあるものだというのを表現しているからなのだろうか?2階にいくと、ここには仏教に関する書物がたくさん売られているので、お土産に買ったらいい。しかし、ここの書店には、仏教だけではなく、ドサクサ紛れにシンガポールの歴史書とかシンガポールがいかに発展したかというような仏教とは全く関係ないような書物も当然のように売られている。リー・クワン・ユーの書いた回顧録から、昔のシンガポールの町並みなどのような定番の本まで売られている。どれだけの人がここらで売っている本を買うのか知らないが、冷やかし半分でどんなものが売られているのかを見るのに立ち寄るのはおもしろいと思う。
新加坡佛牙寺龍華院(Budda Tooth Relic Temple And Museum)
URL : http://www.btrts.org.sg
Address : 288, South Bridge Road
Open : 7:00am - 7:00pm
Admission Fare : もちろん無料
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