ザグレブからのいろいろなところを経由して日本に帰るために、最初にウィーンまでの飛行機に乗らないといけない。その飛行機は朝8時5分発の飛行機であるために、6時ごろまでにザグレブの空港に行かないといけない。タクシーで約20分くらいかかることを考えると、チェックアウトの日は早朝5時半までには実施しないといけない。さらに逆算すると、帰宅の支度をするためには、4時半ごろには起床しなければならない。結構朝から眠くてつらい帰国の旅程なのである。
そういう辛さはわかっているけど、接続便の都合上、先述の時間に出発する飛行機にのらなければならないのである。ザグレブからウィーンに行くオーストリア航空は、クロアチア航空とのコードシェア便であるが、ザグレブの空港で見ると、その日の朝では2番目に出発する飛行機のようである。1番目はフランクフルト行きの飛行機。だから、自分たちがザグレブの空港に到着したときには、それほどチェックインカウンターにもたくさん人が並んでいる様子は無かったし、空港自体もまだ6時ごろなので、なにもやっておらず、結構静かで冷ややかな雰囲気が醸し出していた。
ザグレブからのウィーンの飛行機とその先の成田までの飛行機は、どちらも自分たちが乗る航空会社としてはオーストリア航空。機材は別の航空会社であるが、航空券上はオーストリア航空なのである。オーストリア航空は出発24時間前からネットで事前チェックインができるところなので、前日の朝に出発当日分の路線全部のチェックインは行って、窓際をもちろん事前にゲットしていたのである。だから、多少チェックイン時間に時間がかかったとしても、自分たちの席はもう確保されているので、変なところをあてがわれると言うことは無いから安心である。
自分たちの前に並んでいた数人もチェックイン手続きが終わり、さて自分たちの番だと思って、カウンターにいるおねえさんに愛想を振りまきながら、トランクをカウンターのところに上げる作業を始めて、チェックインの手続きを行う。しかしながら、両隣のカウンターの様子がどうも変なのである。なにか乗客とカウンターのお姉さんが、双方で困った顔をしながらなにやら話し始めた。どうせまたわけのわからないリクエストでも乗客のほうがカウンターの人に言っているんだろうと勝手に思いながら、こちらの手続きを進める。
自分たちを担当してくれたお姐さんは、クロアチアの人でも結構綺麗な顔をしているで、すました顔をしながら、パチパチとキーボードを打ちながら搭乗券の発券をしようとしていた。ところが、途中から顔が険しくなってきて、わかっているはずなのに「To Tokyo?」と言ってきた。なにかあったか?と気になる。そうしている間に、右隣のひとは、預けようとしていた自分のトランクを再度自分で取り上げ、はぁあーと溜息しながらその場を去っていった。左側のひとは、、3人組の旅行者だったようだが、そのうちの1人は座り込んでしまっていた。
なんだか雲行きが怪しい様子。そして目の前のお姉さんも、困った顔をしてスーパーバイザーのおばさんになにやら話し始めた。でもクロアチア語なので何を言っているのかちっともわからない。そのうち、おねえさんは諦め顔で一言ポツリと言った。「System Down....」と。
どうやらチェックインシステム全部がぶっ壊れたらしい。こうなったら後ろで監視をしていたスーパーバイザのおばさんが裏に廻っていろいろ調べ始める。どこかに電話をかけ始める。最初は「ははーん」と鼻で笑っていた様子も、だんだん顔は険しくなってきて、電話をかけている口調が激しく怒り始めて来た。システム復旧の見込みは全く未定で、このままでは発券されず、さらにいうと飛行機に荷物も詰め込めず、一体どうなってしまうんだろうという不安が出てくる。しかし、自分たちはまだいい。なぜならカウンターの前にいて、お姉さんからシステムダウンのことを聞いているから。可愛そうなのは、システムダウンしていることを知らない、自分たちの後ろの列に並んでいる人たち。一向に、カウンターで手続きをしている各カウンターが全く処理されていない異常事態にだんだん気づき始める。英語ではない言語ではあるが、明らかに「何やっているんだよー、早くやれよー」ということを言い始める短気のジジィが叫び始めた。それから、列を全く無視して、カウンターではどういうことになっているのかと覗き見し始める暇なおっさんたちも出てきた。そういう積極的なおっさんたちによって、次第に、チェックインシステム自体がシステムダウンしていることの情報が他の乗客に伝わる。こういうときの口伝えによる伝達は早い。それまでギャーギャー騒いでいたおっさんたちも、黙るのだ。
しかし、情況としては6時半の段階でシステムダウンの状態がいつになったら復旧するのかわからないというものなので、自分たちは8時5分だから良いとしても、それよりも前に出発するフランクフルト行きの人たちの出発は実は7時45分であり、チェックインができないということになると、飛行機に乗れないではないか!という問題が出てくる。つまり、騒ぎ始めた客層が変わって、今度はフランクフルト行きに乗ろうとしているひとたちが騒ぎ始めたのだ。
そこで空港側は考えた。搭乗券の発券を、システムによることをせずに、なんと手書きで発券し始めたのである。今まで飛行機に何度か乗ったことはあるが、手書きで発券処理をしているのを見たのははじめてである。「passengers to Frankfurt here!」とカウンターの1人は叫んでいる。そう、フランクフルト行きの人たちは、この手書き発券のカウンターで随時処理をするということなのである。最初は1つのカウンターだけで処理をしていたのだが、乗客の数があまりにも多いので(当たり前であるが)、そのうち、フランクフルト行きの人たちが優先的にすべてのカウンターで手書き発券の手続きをすることになった。それじゃ、いまカウンターにいる自分たちはどうしていたかというと、一度預けようとしたトランクをまた自分たちのところに戻して、一歩下がってカウンターの前で待ったのである。フランクフルト行きの人の処理をすべて終わったら、一番最初に発券処理をしてあげようということなのである。だから、てんやわんやの様子を一番間近で見ることができたのだ。
そうこうしているうちに、「System Up!」とおばさんが叫ぶ声があがる。カウンターの人たちもホッとした様子になる。そうなったら、もう普通に発券処理ができることになるので、一歩下がって待っていた自分たちが前に出て、荷物を預けることと、搭乗券の発券処理がようやくすることができた。もちろん、ザグレブからウィーンだけではなく、ウィーンから成田の搭乗券も一緒に発券することができた。ザグレブではひと波乱あってチェックインができたのだが、ここで成田までの搭乗券を発券してくれたことが、あとでずいぶん助かることになる。その日一番機のフランクフルト便は、チェックイン手続きの不届きのために、7時45分に出発するところを結果的には8時半ごろになって出発していった。自分たちの飛行機も8時5分出発のところを45分遅れの出発としてウィーンに向けて出発した。ウィーンにはもともと9時5分に到着し、13時30分発の成田行きまで随分時間があったので、遅れて出発したとしても、乗り換えには全く問題なし。むしろ、ウィーンで4時間半も何をして過ごそうかと困っていたところだったので、そのうち、1時間くらい無くなったということは、ウィーンでやることを考えなくてもよくなるから良いのだ。1時間のフライトに到着したあとのウィーンでやりたいことは実はあった。ウィーンに到着したら、ウィーンの空港でお土産を買いたいということ。実はウィーンの空港は、シェンゲン協定を組んでいるところに行く飛行機のターミナルと、それ以外の場所に行く飛行機のターミナルは全く異なり、シェンゲン協定外に行く飛行機のターミナルは、免税店を含めて非常に店の数が少ない。そこで普通にウィーンで乗り換えて、そのまま成田便に乗ろうとすると、まったく土産屋を通らずに日本に帰国してしまうのだ。それを往路のウィーンからドブロブニクに行くときにウィーンの空港の構造を知っていたので、すごい短時間ではあるのだが、一旦オーストリアに入国するような顔をして、そのままお土産屋にまっすぐ行くという方法をとったのである。普通、ウィーンから成田に帰る人は、お土産屋がたくさんあるシェンゲン協定のターミナルでチェックインをしたあと、そのままターミナル移動で別のターミナルへ移動する。だから、一番あとで搭乗寸前にお土産を買おうとおもうと、後の祭りになるのだ。
ウィーンで一度オーストリアに入国した形になると、当然到着ロビーフロアに出てくる。そのあと、また出国ロビーがある上の階に戻ることになるのだが、そのときにチェックして欲しいのが、空港内搭乗前の店よりも、空港内のチェックイン前の店のほうが同じ商品でも値段が異なるという点である。例えば、バラマキ土産として定番のマンナーのウェハースで、一番小さいサイズのものは、搭乗口付近では1個1.2EURだが、外だと0.8EURくらいになる。空港内は免税店になるから安いんじゃないの?と思っていたらそうでもないのである。
ひと通り、チェックインカウンター前の店を見たあと、ふとオーストリア航空のチェックインカウンターを見てみたら、すごい長蛇の列。オーストリア航空のカウンターは行き先別にチェックイン処理を行うわけではないので、各地に渡航する人たちが1列に並んでいるのだが、それが通常の列の枠から大きくはみ出て、どこまで続くのだ、この列は?というくらいの長い列で、その列が全く進む様子がない。
ゴールデンウィーク最後の日だから、日本人も多く見られたし、みんな旅行にこの時期は行くんだなーとのんきに考えていたら、カウンターのほうに目をやってみると、オーストリア航空のすべてのカウンターの上に表示されているディスプレイが
「SYSTEMAUSFALL : Wir bitten um Geduld. DANKE」
と出ていた。英語でいうところの「SYSTEMBREAKDOWN : We ask for your patience. THANK YOU」だ。つまり、ウィーンの空港でもチェックインシステムがダウンしてしまって、発券および搭乗手続きが全くできなくなってしまったということである。
自分たちは幸いにもウィーンから成田に行く搭乗券もザグレブで発券してもらっていたので、この長蛇の列に加わって搭乗券を受け取るということをしなくて良い。だけど、いつシステムが復活するかわからないような状態で、ザグレブと違いオーストリア航空のハブ空港のような大きな空港で待たされるということは、システムが復活したとしても、いつ自分の番が廻ってくるのかという不安に駆られたことだろう。そういう人の不幸を一瞬のうちに考えたときに、こちらもすでに同じようなトラブルに遭遇してしまったこともあるのだが、必然的に大笑いしてしまった。友達は「笑うな」と注意をしてくれたのだが、こんな面白いことが笑わないでいられますかー。
システム復活するのを待ちながら長蛇の列に立っている人たちを横目に、その場をすたすたと通り過ぎ、お土産屋がたくさんあるシェンゲン協定内の航路が発着する搭乗エリアにやってきた。このエリアに入る際には、持っている搭乗券とパスポートを係員に見せる必要がある。パスポートコントロールの場所ではない。
その入口の先には、大きなお土産屋があるのだが、お目当てはここで売られているホテル・ザッハーのザッハートルテ(30EUR)である。中ぐらいのサイズのザッハートルテのホールが2個入っている箱売りもので、ホテルザッハーでも売られているのだが、搭乗寸前に買うほうが融けなくていいと思っているからだ。このエリアで買うのと、チェックインカウンター前でも同じようにザッハーの店はあるが、その店の値段は同じである。そのザッハートルテと一緒にばら撒き土産として、マンナーの20個入り箱(結構大きい)もここで買った。これでお目当てのお土産は終了。結構な荷物になってしまうのだが、そこで会計をしようかなとしているときに、これまた変な光景を見てしまった。というのも、500mlのペットボトルをたくさん積んだリヤカーを引っ張って、搭乗エリアからチェックインカウンターのほうに運ぼうとしている空港係員数人を見た。お店の人に「あれは何?」と聞くと、「さっきチェックインシステムがダウンしているとアナウンスがあったから、たぶん乗客に配るための水じゃないかな?」とのこと。なるほど。確かに長蛇の列で、それも立っていると疲れてくるし、それに人がたくさんいるとその多さで熱くなってくるので、ここで水を配ってくれるというのは本当にありがたいことである。
結局13時半に出発するべき飛行機は、チェックインシステムがなかなか復活しなかったために、出発は1時間遅れの14時半になってしまった。搭乗口付近に早くから乗り込むのを待っていた人たちにとっては、かなり待ちくたびれる結果になってしまったのだが、搭乗予定の人たちが全員集まらないと飛行機は出発しないのである。チェックインが遅くなったからと言っても、慌てないで自分のペースで買い物するようなバカも結構いるわけで、そういう人がいるから、飛行機が時間通りに飛ぶことができなくなるのであるから、本当に良い迷惑な客だと思う。
同日で2つの空港でシステムトラブルにより搭乗券を発券できなくなったという事象に出くわしたことは、トラブル好きとしてはなかなか面白かった。悪いのは自分ではなく、航空会社でもなく、空港であるというところが面白い。こういうときに、飛行機の出発も遅くなるというのも初めて知った。