やっぱり三が日の正月にやることがなくなってしょうがないから落語でも観にいくかというような人が多いときと異なり、少し日数が経過したあとにいく末廣亭はそんなに並んでまで観ようとするひとは少ないのかな?と思ってしまった。だいたい、第二部から観るために早めにきてしまい、それが先頭になるようなことはこれまで無かったので、どうしていいか末廣亭の前であたふたしてしまった。支配人みたいな人で、入口で仕切っていた係りの人に「第二部から見たいんですけど、どこで待っていたら良いですか?」と聞いてみた。そうしたら「第二部からですか?ちょっと早すぎません?1時半ごろからお並びになっても十分座れると思いますよ」と言われた。でも、変な席になるのがイヤだったので「いえ、いまから待ってます」と答えて、その辺で待っていた。
同じように、後から二部からの観覧で入館しようとする人がいたのだが、その人たちが入口付近で仕切っているひとに「二部って予約制ですか?」とか「いまから並ばないとダメですか?」というようなことを聞いていた、そのたびに同じような回答を係員の人が答えていたが、既に1人並んでいることがこの人たちの目には見えていないんだろうか?とだんだん不安になってきた。結局11時から12時くらいの1時間の間に、自分の後ろに並ぶような人は全然おらず、みんな「1時半くらいから並べばいい」という言葉を信じてかしらないが、その時間がくるまで伊勢丹や丸井で買い物かご飯でも食べてこようとするひとばっかりがいた。ようやく12時くらいになったときに、落語好きの子供を連れた親子が並び始めたのである。そのひとたちも最初は自分たちが一番最初にきたものだと思っていたら、並び列が出来る定位置のところに1人ぽつーんと人がいるのに気づいて、「二部からの観覧ですか?」と聞いてきたので「ええ、先頭として待ってます」と答えると、その後ろに並んでくれたのである。やっとこれでここに列が出来ているというアピールができたというものだが、それまでの1時間は、末廣亭の店の前で、黙って本を読んでいる奇特な人が1人ポツンと立っているというように見えていたことだろう。
12時半ごろになって友達がお茶とお菓子を持参して現れた。先に列の順番に待つのが自分の仕事で、そのあと、外気は寒いから温かい飲み物となにか食べ物を持参してくるのが友達の役割だった。さすがに1時間半、寒風の中に単に突っ立っているだけの状態は寒くて仕方なかったし、第一トイレに行きたくて仕方なかったのだが、ちょうど良いタイミングで合流できたので、そのまま即効で近くのトイレに行く。こういうときのトイレ問題は本当に困る。末廣亭で並ぶときにはこのトイレのことは先に情報を仕入れておかないと、いざというときにどこにトイレがあるのかわからないで大失態になることはいやだから。
やはり三が日のときと列の出来方が違うようで、この日は係員のひとが言っていたように、1時半ごろになっても末廣亭から寿司屋方向に伸びる列の最後尾が角を曲がっていなかったことに驚く。三が日だったら、既に1時過ぎにはあの角を曲がったところに最後尾のひとは並んでいて、始まるまであと1時間以上もあるのに、自分も含めて並んでいることにご苦労様というようなことになるのだが、今回は全然そうではなかった。でも、最終的には2時くらいになったときには結構な長蛇の列が出来ていたようで、あとから並ぼうとする人が、横入りでもしようと企んでいたのか「何時から入れるんですか?」と係員に聞いていたようだが、2時15分頃ですねという冷たい返答と、お並びになってお待ちくださいという冷ややかな対応に、ショックを受けていたみたいである。なぜなら、正月の落語は、すべて予約制ではないので、並んで入れたひとだけが席を選べるというものである。楽しては観られないのだ。
さて、今回の正月公演、無理やりでも実は1月5日までには行きたいと思っていた。それは松旭亭八重子アンドプラスワンが出演するからで、プログラム上は元日から10日までの1月上旬公演のうち、上半期だけが登場するということが書かれていたからである。彼らのマジックショーを観ないと、やはりお正月が来たという感じがしないのだ。芸としては大体同じようなことをするのはわかっているのだが、それはもう寅さん映画を観ているかのように、そこでそれを出すのが定番というのを、観ている観客側も期待しているというところもあるのだろう。出た!観た!笑った!の三拍子をその場の観客と演者で共感できるための瞬間が気持ち良いのである。
それから第二部のトリは歌丸さん。この人のネタも毎年同じようなネタなので、正直厭きてきたところもあるのだが、まぁまだ高座に立っているということだけで、許そうではないか。だいたい、「人が高座で一生懸命しゃべっているのに、バリバリお菓子を食べながら観ているひとがいる。あっ、そちらのお客さんのことを言っているんじゃないんですよ」という客イジリから始まり、笑点ネタを少し披露して、落語の本題に入るというもの。最後に緞帳が下りるときに、いつもなにかごにょごにょ言っているんだが、これが何を言っているのかいつも分からないでいる。「どうもありがとうございました」くらいのことを言っているんだろうが、ちょっと気になるところだ。
あとは、1回中休みが入るだけで、第二部だけでも15人くらいの落語家や芸人が出てくるものである。やっぱり漫才は良い。勢いがある漫才は、観ていてワクワクしてくる。夫婦漫才の人が出てくると、始終頬が垂れてしまいそうになるのだが、それでも違う漫才のひとたちが出てくると笑えるので良い。
そういえば、今回は紙切り芸人の人が出てきたのだが、師匠とその弟子の2人が共演するというのを初めて観た。御題を観客からもらって、それに即した紙きりをするのだが、毎度ながら即興で作り上げる紙切りの技術にブラボーと賞賛したいところだ。師匠よりも弟子のほうが早くて綺麗に出来上がるというときがあったので、そのときには師匠の面目丸つぶれだなと少し思ったことがあったが、その緊張感もなんとなく伝わってくる。
今回は高座に上がる芸人たちは定番ネタを引っさげてきたために、安心して観られるものだったが、どうも観客側がよくなかった。特に、入館前に自分たちのすぐ後ろに並んでいた子供が鬱陶しかった。本人落語好きだというのは、列に並んでいるときに、落語家や芸人の名前をさすとき、オマエは関係者か?といわんばかりに「~さん」付けで呼んでいることから、こいつ何様?と思っていたのだが、これが入館して芸が始まったときにも、他の観客とは違うところで大声で笑っていたりしているし、なにか芸人に対して目立とう、目立とうとする嫌な態度を取っていたのがイヤだった。保護者のひとが放置プレーで子供の好き勝手にさせていたのが一番原因なんだと思うが、あのポイントの外れた笑いをされることで、きっと高座に上がっている芸人たちも、やりにくいなーと思ったことに違いない。
それにしても、末廣亭アリーナ席(?)は当然ながら、両サイドの座布団席までずらーっと満員で入館しているのは、いつもながら圧巻だ。毎日こんだけ人が入っていれば我々も楽しいし、儲けが多いですよねーと、どこかの落語家が正月お披露目公演のときによくつかうネタなのだが、まさしくこれは本心だろう。正月だけじゃなく、普段からもこれだけ人が来てくれたら良いのにと思っているに違いない。いずれにしろ、ちょっと前にジャニタレによる落語を舞台としたドラマがあったせいで、頭がパーの女性ファンが本場落語を観たいがためにやってきていたようだが、もうそういう話題にのることがステータスと思っているバカ女がいなくなったことは嬉しい。
新宿・末廣亭
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