2013/01/06

バンコク迷走(書籍)

文化程度の上下というのは何を基準にしたら良いのかは非常に難しい。工業化しているから文化程度が高く、農作業従事者が多いから文化程度が低いなんていうのは、荒唐無稽のお笑いでしかない。各国はなんらかの独自の文化が存在するわけで、いまの北朝鮮や毛沢東がいた時代の中国なんていうのは、文化自体が発展の妨げになるという意味不明なクリーンイメージを政治や国家に求めていたが、こういうのは除外としよう。最終的には国民性とあわないことは歴史が証明している。

戦前では、白人社会、特にヨーロッパはアジア全般に対して、野蛮人が存在しているエリアと野蛮で低俗な人間しか存在していないという固定観念から、欲しいものだけは現地からかっぱらって、現地の有能者を使って、あたかも自分たちが仕掛けたのではなく、現地人同士で醜い闘争することで、ひとつ高い舞台から彼らの闘争をみていて、美味しいところだけを本国へ利益という形で持って帰ったという歴史がある。名誉白人の称号をその後貰うことになった日本人もヨーロッパ人と似たようなところがあり、同じアジアの国家に存在するのだが、自分たちはアジアのほかの国とは全く異なり、彼らよりは先端的な考えを持っており、法治的ではあるが独裁的な要素を持っておらず、気持ちはアメリカ・ヨーロッパの人たちと同じというのが定番の世界になったのが戦後の高度成長期にまともな食事を食べられるようになった日本人が思い始めた思想だ。

そんな時代に育った人が東南アジアを根城とするような放浪生活のようなものをしたら、当地でどういう考えで行動するかというのは分かりやすい想像だ。例え、武器を持たないで当地に行ったとしても、ヨーロッパ人が19世紀までに行動する際に持っていた思想をそのまま体言化しようとしたことだろう。それは何かというと、所詮、アジアの諸国は日本のように発展することはなく、いつまでもみすぼらしく、いつまでも日本人が高飛車で居られるよな社会であるのが当然であり、いつまでも日本からの円借款でしか生き残れるわけがないと本気で思っているということだ。

下川裕治の「バンコク迷走」という書物は、至る所に上述の「東南アジアはいつまでもみすぼらしいことが似合っている」というニュアンスが出ている不快極まる書物だ。内容としては、バンコクを旅行するときに、いろいろな形で遭遇する各種の習慣・仕組み・文化を紹介しているものである。だから、彼の思想を除けは、そんなに古い紹介ではない本書は、バンコクを初めて旅行をする人にとっては有益な情報が結構載っている。ガイドブックは全く特集が書いておらず、どちらかというと食べる・寝る・そして観光地としてみるべきところはどこかを書いているようなものだが、それらの情報を補完するようなものだということ。

自称、バンコクを何度も来ており、タイへ語学留学もしたというからタイは本気で好きなんだろうが、たぶん年々発達していくタイの成長に対してはどうしても納得がいなかったのだろう。「前はこんなタイ人じゃなかった」とか「前のバンコクはこんな街じゃなく混沌としたところがよかった」といつまでも寝ぼけたことばかりを言っているのが文章のなかによく出てくる。おそらくまだバンコクにセックス旅行をするために来ているような欧米人やら金持ち日本人のなかには、タイの現地人にちょっと金を渡せばすぐにセックスできると思っているし、この本の中ではまったく性的表現がでてこないのだが、このひともきっと妻子があるにも関わらず、現地の人との交流としてセックスを利用していたような人種なんだろう。こういう人が、自分は長くバンコクに滞在していたから、バンコクのことなら何でもよく知っているとでも言わんばかりに自慢しているんだろうが、結局はタイおよびタイ人に対する見下したモノの見方しかしたことがないから、タイの経済的発展についてなぜそういう動向になったのかということについても、おそらく政治的にどういう戦略を持っているのかも、王室がどういう行動をしているのかも、きっと新聞掲載程度の情報しかもっていないのだろう。タイの新聞掲載程度であれば、それは一般日本人よりも少しはタイの情報を知っているから、書物やネット上でタイに関する情報をちょっとだけ詳細に書いたりすることが出来るんだろうと思うが、それを「ボクはよく知っている」という宣伝のために使われるのは本当に腹がたつものだ。タイ人から見たら「奈にいっているの、このおっさん」という程度にしか映らないのだろう。

本の内容についてあまりレビューと記載しなかったが、基本的には上記にような文調で書かれているので、タイが発展して来たことに対して心から喜んでいるような様子は全くない。なぜ自称「好きなタイ」が発展していくことに対して嘆くのだろうか?嘆く必要がないじゃないか。一緒に喜んだら良いじゃないかと思うのだが、この人はどうしてもできないらしい。古きよきタイを知っているからそれが壊れるのがイヤだというような書き方をしている。これはタイとタイ人を尊敬せず、バカにしている表現を綺麗でかつ歪曲した形で表現しているに過ぎない。こんな人がタイにいて、タイのことを語ることは悲しいことだろう。

下川裕治氏のブログ
URL : http://odyssey.namjai.cc/

バンコク迷走
著者:下川 裕治
文庫: 309ページ
出版社: 双葉社
発売日: 2006/07

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