マルタの中を移動するに、ほとんど唯一というべき交通手段というのは、バスしかない。タクシーという選択もあるが、やはりそれなりに料金を弾まなければいけないので、公共交通機関としてタクシーを挙げるのはここでは言及しない。日本でも写真集が出版されているくらいマルタのバスは、なんだか田舎臭く、でもその姿が「となりのトトロ」に出てくるようなバスにそっくりなので、日本では「猫バス」と勝手に命名されている場合も有る。
しばらくマルタに滞在する予定であったので、ガイドにも書いてあったが、3日間券を買って、以後バスを乗り降りする際に、料金のことを気にせずに乗り込もうと思い、バスターミナルにあるインフォメーションで買おうとした。しかし、今はインフォメーションで買うのではなく、各バスの中で購入することができるらしく、そちらで買ってくれとのこと。コゾ島に向かおうと思ったバスの中で実際に3日間券を買ってみた。
ところが、意外なことに、バスの運転手は3日間券を買おうとしたときに「おまえは本当にそんなものを買うのか?」という顔をしたのが気になった。ちなみに3日間券でLm4.0だから、日本円換算すると結構高い(Lm1は約400円)。そして、ガイドに載っていたようなちょっとカラフルな有効パスではなく、普通の乗車券と同様、レシートのようなもので渡される。ただ、3日間券を買う人が少ないのか、単なるレシートだと、数日使っていればボロボロになるために、携帯常備薬を入れるような透明の袋をおまけにくれる。この時には運転手の怪訝な顔の理由は分からなかったのだが、あとで考えてみると、こんな3日間券を買う人は誰もいないという理由が分かる。
これが運転席となりにある切符を出す機械。というのも、マルタ島では、距離によってその料金は決まっているとはいえ、1回の乗車料金はだいたい20~50セントである。これは前払い方式であるため、どの人も乗り込んだときに運転手に直接行きたい場所を伝えると、それに見合った料金を運転手が伝え、料金と引き換えにチケットを渡されるというものだ。Lm4.0ということは、最大料金50セントの区間を乗ったとしても、4往復はしないと元は取れないことになる。それに、これはゴゾ島に行って初めて分かったことだが、マルタ島での3日間券はゴゾ島では全然使えない。ゴゾ島で3日間券を見せたときに「それは使えないから、金を払え」と言われた。実際に運行している会社が異なるようで、ゴゾ島はゴゾ専用のバス会社が発行している有効パスを持っていないと乗り放題にはならないのだ。これからマルタにいってバスを使う人は注意である。
こちらはゴゾ島のバス。銀色ボディに赤線が特徴。マルタ島のバスは黄色に赤線だ。なんでもかんでも周りから甘やかされている日本人的感覚からすると、次のバス停のアナウンスは無いのはまぁ許すとしても、バスの行き先がないとか、バス停には行き先と番号を示す関係表がないとか、バスがどこを通るのかを示す案内がひとつも無いということを見ると、きっとかなり不安になるに違いない。でも、実際にマルタとはそういう場所である。バス停も「Bus Stop」と書いているだけなので、田舎のほうに行くとどこにバス停があるのかわからないという場合も多い。ヴァレッタ近郊のような場所だと、バス停らしくボックスになっている場合があるので、これなら分かりやすいが、郊外はそうじゃないので注意だ。また、行きのルートと帰りのルートが全然違う場合があるので、これも注意である。バス停があったので、そこでバスが来るのを待っていたら、全然バスが来る気配がない。そうすると、米粒みたいに小さくバスが走っているのが見えて、それが自分たちが変える方向に向かっているバスだったので、びっくりした。バスのほうも心得ているようで、警笛を鳴らしてくれて、「乗れ!」と叫んでいる。猛ダッシュで炎天下の中、走ってバスに乗り込んだことを思い出した。つまり、もう使っていないバス停が結構たくさんあって、それがそのまま放置されているというのもマルタの特徴である。
バス停を示す標識は無いが、こういう小屋が道路沿いにあると、そこはバス停だ。ヴァレッタ市内にあるバス停。さすが都会だけあって、ガラス張りのバス停だ。ここまで行き先を記載したバス停は珍しい。大体は「Bus Stop」のみ。ヴァレッタのバスターミナルから乗る場合には、バスの番号によって停車場が決まっているので、それを頼りに乗り込むことは可能である。バスターミナルのどこの位置にどの番号のバスが止まるかは、ターミナルのインフォメーションで、行き先一覧表をもらえるので、その表の中に図解があるから、それを参照するのが良い。
マルタのバスは、暑いところだからというのが理由かもしれないが、まず乗降するドアを閉めない。おまけに、運転は結構荒い。「つり革をおつかまりください」なんていう生易しいアナウンスなんて絶対しない。転んだら転んだ人が悪い。ドアから落ちたら落ちた人が悪いというのがここの慣わしである。だから、誰一人として、床に荷物を置く人はいないのだ。急停止急発進で、もし荷物が外に出た場合には、それこそ一大事だからである。特に人気路線では、座っている人以上の人がバスの中で立っている場合があるが、そのひとたちは本当に危険だと思う。幸い、滞在中、バスの中で立ちっぱなしになることはなかったので、そのような危険性は無かったのだが、老人たちにとっては辛い乗り物かもしれない。
観光客が行くような場所は、だいたいみんな同じようなところに行くので、運転手のほうも慣れている。観光客が行く場所に近くなると「○○だよー」と叫んでくれるので、それを目当てに降りることにしよう。だいたい、バスに乗るときに「~へ行きたい」というのだから、運転手も客がどこで降りるかというのを把握しているものだ。そして、辺鄙なところでもだいたいどの時間帯でも観光客はいるので、降りる場所に不安であっても、他の観光客の尻を金魚の糞のように付いていくと目的地に到着することができる。日本のガイドより、ドイツ人が持っているガイドのほうが、同じヨーロッパの国の案内なので情報量が豊富であるため、信頼できる情報が載っているから、ドイツ人を見つけて同じ方向に行くのかどうかを見極めたほうがいいと思う。マルタではかなりたくさんのドイツ人観光客を見かけることがあった。
バス待ちの女子高校生。マルタはいちおう制服らしい。何処の国も似たような待ち方だ。
ヴァレッタのバスターミナル傍には、キオスクがたくさんある。遠出をするのであれば、水やスナック類を買い込んで乗り込みたい。だいたい、バスで行った先に、まともにカフェやキオスクやコンビニがあったためしがないからだ。