実際にSLに乗ってみると、いつ発車したのかな?というくらいなんの衝撃もなく発車した。機関車だけ珍しく、客車は昔の団体旅行列車だったから、車輌と車輌ががちゃがちゃと重なる音みたいなのが体験できるかと思ったのに、それはなかった。それよりも、機関車の牽引による運転の場合、運転が下手な人の運転のようにがっくんがっくんとするのが普通なのだろうか?というほうが気になった。
車輌の中は冷房が効いていたので窓を開けることはなかったが、どこかの人が窓を開けて、先頭の機関車からでる煙を見ようとしていたのだろう、その煙がたまに車輌の中に入ってきて気分が良くなる。あの炭素が燃える匂いは結構好きだ。しかし匂いはしてもその煙は想像するような真っ黒な煙が出ているわけではなく、近隣住民の迷惑にならないような煙、つまり一酸化炭素状態でもなければ過酸化状態でもない、透明な煙が出ていた。昔の小説のように、窓をあけると、黒い煙で顔が煤けるというようなのが体験できるかと思ったが、そんなことはないみたいだ。よくかんがえたら、トンネルに入ればありうるが、普通のところを走っている機関車で真っ黒になるわけがない。
車内はというと、ホームで騒いでいたがきんちょたちが、さらなるテンションを揚げて騒ぎまくっている。親が注意しても無駄で、さらに騒がしさの勢いは増す。追いうち掛けて、車内では車内販売が来るのだが、通常の弁当・飲み物のほかに、子供用の記念玩具も売られているから「あれ買ってくれ」と騒ぐ子もいれば、手に入れた子は玩具のうちの1つである笛をぴーぴー吹きまくっているのである。火に油とはこのことかという状況である。のんびり車窓でも眺めていようかと思うのだが、そんな気分にもならない。車窓も車窓で、もっと景色がいいものかと思っていたら、これがまたつまんない景色で、もっと森林地帯を走っているような風景とか、または民家のところを走っているというのであれば厭きはこないが、中途半端な農村地帯を走っていたために、あくびがでてくるくらいのつまらなさである。たまに沿線でSLを撮影している人が現れて、三脚にすごいカメラを用意しているのが窓越しに見えるくらいである。あとは沿線のひとがSLに向かって手を振っているという景色がみるだけだ。景観があまりよくないので、最初は往復でのろうかと思ったSLではあるが、片道しか乗らないことに決定したのはこのときである。
騒々しい車内も、途中駅「長瀞」に到着すると、客の2/3が降りた。その代わりに今度は長瀞駅から、今下りた客と同じくらいの数の人が乗り込んできた。結局車内はまた満員状態である。長瀞駅に着く前に、いくつかの駅も到着しているのだが、そこから乗ってくる人はしばらく立っていなければならないので、できれば始発駅からのるべきだろう。一番分かりやすいのは、東武線とJR線との交差する寄居駅だろう。ここの到着した段階で既に満員の車内なので、寄居から乗ったほうが便利という人にとっては、乗り込んだ車内で幻滅することになる。
当初の計画では、長瀞駅で降りて川くだりをして、それから今度は秩父鉄道の終点である三峰口まで行き、復路のSLに乗ろうとしたのだが、長瀞で降りる人の数を見て、きっと川くだりでもたくさん待たねばならないのを考えると、それだけで嫌になった。おまけにSLからの車窓が良くないので、同じところをまた乗るとするとつまらないと思ったからである。そこでいま乗っているSLで終点まで行き、それで引き返そうと思ったのだ。
終点の三峰口に到着したとき、熊谷駅で見た光景と同じような光景がプラットフォーム上で見ることが出来た。つまり、機関車の写真を撮ろうとしているひとたちが集まっているのである。しかし、機関車はそんな写真を撮ろうとしている人たちには目もくれず、客車と離され、石炭の積み足し清掃のために機関車は無像にも自分たちのところから離れていった。カメラを持っている人たちは溜息がでるだけだったのだが、遠くで機関車が止まった。どうやらそこで機関車の清掃が行われるようで、機関車を間近に見られるというものであった。
三峰口では一旦改札口を出て、機関車のところに大変たくさんの人達が行く。三峰口の駅前は、山岳登山をする人用にとっては普通の駅の感じだろうが、とても寂しい気がした。駅前にはバス停と2軒の店があるだけだ。あとは何もない。SLから降りてきた客が一服できるように、お茶のサービスも用意されていたのだが、そういえば、ここまできた乗客は一体この後何をするのだろうか?たぶん多くは、またSLにのろうとするのだろうが、それ以外のひとは何をするのか不明。三峰神社までバスにのってお参りしようという人は居なかった。
さて、長瀞に向かう際には、普通電車で移動する。SLが超遅い運行だったのに比べると、なんとこの普通電車が速く感じるのだろうか。あっというまに長瀞についてしまったのだ。
長瀞駅を降りた途端に、すごい人の数が駅を中心にうようよと漂っている。多くは川くだりをしようとしているひとか、またはしおわったひとだろうとおもうのだが、それにしてもこんなド田舎のところに、原宿顔向けの客数が来ているのは驚きだ。川くだりも最初は1時間コースを堪能したかったのだが、駅前にいた申込書臨時所で聞いてみたところ、1時間コースはかなりたくさんの客がいるために、乗るまでに時間がかかり今日はもう受付しないということ。なんだとー!それじゃ、30分コースしかないではないかとおもうのだが、長瀞駅を中心に、その上流から始まる場合と、長瀞駅から始まる場合の2種類がある。どちらが楽しそうかがわからないので、おもわず、長瀞駅から始まるコースを選んでしまった。あとで考えると、上流のほうが激流がありそうなきがした。
有名な川くだりの乗り場までは、お茶屋さんや食べもの屋さんが並ぶ、ちょっとした商店街になっている。ここでのんびりするのも良い。川くだりを終えた客がたくさん昼ご飯や休憩をしているのを見ることができた。そんな店には目もくれず、じゃんじゃん川のほうに降りていくと、砂利ではないが大きな石が並ぶ川原に出る。そこから川くだりの船がでているのだ。
川くだりの船は1艘で20人分を乗せて出発する。子供の場合はだいたい0.7人分のスペースとして考えるようで、場合によっては人間の数で22人とかになっている場合もあるようだ。この場合、一番最後に乗り込むことができたらラッキーだと思う。というのも、一番最後に乗り込むところが先頭になるので、前に人がいないから前が見やすい。座るのは、船の縁を背中にして乗るかたちになるため、前を向こうとすると、どうしても横向きになる。だから、隣に人が居ると、よく前が見えないということになるのだ。
数箇所、急流が早いところがあるのだが、激流というわけではなんともない。はっきりいって拍子抜けする。しかし、ここはいちおうラフティングが出来る場所でもあるようなので、本当はもっと急流なところもあるのかもしれない。
川くだりもSLも「言うほどじゃないな」という感想を残し、帰りは西武池袋線経由の直通電車に乗って東京へ戻る。
秩父鉄道
http://www.chichibu-railway.co.jp/