2008/02/23

北京


今年は北京オリンピックの年。しかし、思ったほど北京オリンピックが盛り上がっていないことに気付く。中国本土では、国家の威信をかけているので、絶対に成功しないと、ただでさえ面子の国なので、共産党独裁政治の崩壊に繋がり、中国の崩壊に繋がることは目に見えている。ただ、それも成功するのかどうかかなり疑わしい段階になってきたのは中国以外の人が思っていることだろう。

政治的な世界はどうでもよくて、北京という町だけにフォーカスを当てて、その町を舞台にどんなことが行われたのか紹介しているのが、今回の書物である。小さい頃から、あの巨大な領土の国の、なんであんな北のほうに首都があるのだろうかと、地球儀を見て思っていたのだが、この本をみれば一目瞭然だ。

単一民族で、日本の領土以外のところとは領土争いをほとんどしてこなかった環境とは異なり、大陸では常に異民族同士が、虎視眈々と派遣争いをしていたのは歴史をちょっとでも勉強したことの有るひとなら分かることだが、それも全く血筋も違い文化も違う民族が、常に取り・取られている領土のなかでは、政治の中心地の場所も、時によって刻々と変わるのは当然だろう。日本の場合は、神様・天皇を中心とした国家形態が2000年ほど続いているため、いくらいくつかの幕府が成立されても、最後は天皇の承認のもとに丸く収まる。しかし、大陸ではその絶対的権力者が居ないため、常にそこを収めていた人間のトップが神様なのだ。

北京を舞台とした政治は、正直、清朝以降の話は多くなってしまうのは当然だろうが、北京を作ったのは清朝ではないため、どちらかというと清朝の時に何が起こったかというのはどうでも良かった。北京を作ったモンゴル系の元の時代に、なぜここを首都としたのかを知ると歴史は楽しくなる。元々モンゴルの草原で、どこでも首都機能を持っていてもよかった元王朝ではあるのだが、中国大陸では少数民族であるため、なんとか人数の多い漢民族を押さえ込むための手段として、モンゴル人や色目人(要は、漢民族以外の外国人)を王朝の役人に抜擢していて、漢民族を最下位の層の民族として扱っていたが、その不満からの反乱を押さえ込むために、モンゴル草原に首都機能を持ちつつも、中国大陸にも首都を持つ二重首都機能を有していた。モンゴルからはあまり遠いとその移動にも大変なので、比較的モンゴルからも移動がまだいける場所につくったということだ。そのあとは、首都機能をここに作ったために、それを継承して明・清もここを首都にしたのが落ち着いたようだ。

北京といえば、紫禁城は北京のシンボルになっているのだが、その名前の由来もこの本では教えてくれる。さらに紫禁城を取り込む数々の門がなぜあるのか、またその名前は何なのかもこの本を見れば一目瞭然だ。いまはそれこそ広場としての名前が有名になってしまっている天安門もその1つであるし、城を囲むように存在する門が、なぜか南に固まっているというのも新しい発見だ。先にも記載した、首都機能を中国大陸の北のほうに置いたというのも、実はこの門の考え方に繋がってくる。答えを言うと、中国での考え方なのだが、神は南を向いてどっしり構えるものだという考えがあるようで、その神に会うためには、神々しくもいくつものの門を通って、その検問を通り、苦労して会うことができるというつくりにしているのだそうだ。そして、北は万里の長城で防いでいるために、北からの敵はこないし、もともと北京を作ったときには元が作ったのだから、自分たちの原産地からは敵なんかやってくるわけがないというのも考えの中にある。

それから北京は、過去に何度も名前を変えているのも面白い。中華民国時代には、首都が南京や重慶にあったので、北京は「北平」だった。いまでも、ちょっと前の台湾、つまり中華民国の地図を見ると、中国大陸は自分たちの領土だと思っていたので、北京は北平と書かれているのが分かる。さらにいうと、今の中国の領土よりも広い地域が「中華民国領土」になっているのがわかる。それも北京という町を中心にどこまでを中国と認めるのかということの歴史に繋がるものだ。

それと、北京の街並みといえば、胡同と呼ばれる横町がいまではすっかり段々なくなってきているというのは悲しいことである。古き街並みがなくなることは、その歴史を全部否定してしまうことに違いない。中国文化では歴史は重要なのだが、古いことが必ずしも良いことであるとは思われていないのである。だから、平気で文化的には重要だろうと思われるエリアさえも、平気で近代化という名前の下にめちゃくちゃな都市設計をするのはよくあること。日本人の感覚ではとても考えられない。この胡同もモンゴル時代に建設された街並みであり、500年近く続いてきたこの街並みも、いよいよ消滅の時期に来ているようだ。それも北京オリンピックという名前の下に。

「京劇」と呼ばれる中国歌舞伎は日本でも言葉として有名なのだが、なぜ「京劇」といわれるのかもこの本を読めば分かる。もともとは上海近郊での芝居団体が、そのまま北京に住み始め、北京語で芝居をやり始めたために「京劇」と呼ばれるようになったのが原因なのだが、日本の歌舞伎文化と同様、京劇俳優たちの裏の姿もここでは説明がされている

1つの都市だけに注目して歴史を見るという感覚は新しい発見だと思ったのだが、その果感覚を通してでも、各王朝がどういう理由でその都市を利用したのかというのが整理されていてとても分かりやすい。清朝に興味があるのであれば、さらに紫禁城とその周りに庭園のことについても詳しい内容が書かれているので、読み応えがあるだろう。中国の歴史を見る上での助けになるので、是非手に入れて読んで欲しいと思う。

北京―世界の都市の物語
文春文庫
竹内 実 (著)
文庫: 455ページ

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