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このホテルは、歴史的にはとても古く、場所柄、たくさんの著名な作家が缶詰になって作品を書き上げるために宿泊する定番の宿として利用されていたことで有名である。出版社からの担当者が「○○さーん、まだできませんかぁ?」とドラマにも出てくるような光景をこのホテルの中で行われていたと考えると、生々しいし、いまにも作家たちの「いま書いているんじゃい。黙っとけ!」と罵倒していたりする様子が見えてきそうだ。このホテルを利用していた著名中の著名作家として、ホテル内のいたるところに記念品が置かれていることでもわかるように、まずは池波正太郎が上げられるだろう。それから、ホテルのメニュにも記載されているのだが、三島由紀夫もここの常連で、ホテルの従業員のもてなしに大変感動している様子が残っている。川端康成もここで作品をしあげたことでも残されている。
また、このホテルは、お客さんへのもてなしかたがとても上品であり、かつ懇切な対応をしていたことと、東京都内には昔は、旅館は存在していたが、ホテル呼べるような宿泊施設が皆無で、東京オリンピックの際にホテル建設ラッシュでホテルは作られたのだが、そのときにどのように外人と接客をしたらいいのか、ホテルらしい接客はどのようにしたらいいのかということが誰もわからず、この山の上ホテルの従業員が、いまでは有名になったホテルオークラや帝国ホテルなどに対してレクチャーをしていたというくらい、東京のホテルの中ではその存在に対して一目置かれているホテルでもある。(詳細については、「山の上ホテル物語」に載っている)
実は、神保町勤務のときに、このホテルに昼ごはんだけ食べにはよく来ていた。オフィスがあった場所からは少し離れていたので、関係者が絶対にこんなところまではご飯を食べにくるわけが無いということと、名前の通りに駿河台の丘の上にあるため、こんな坂の上まで上ってきてまでご飯を食べに来る人なんか会社の人間にはいないだろうということを想定していたからである。想像通り、在勤中は昼ごはんに関係者に遭遇したことは全く無かったので、のんびりご飯が食べられた。ホテルの中のレストランだから、めちゃくちゃ高いだろうと想像されるだろうが、そんなことはない。ランチメニュであれば、1000円くらいで食べられたので、お財布にもやさしかったのである。それに美味いし。まずくてこの値段だったらリピータにはならない。
ただ、昼ごはんにきたことはあっても、作家たちが使われる宿だと知っていても、中に泊まった事はなかったので、頭の中では作家たちの怨念と熱気が渦巻いているホテルなのだろうと勝手に想像していたが、実際に宿泊してみて、そんなことは微塵も無いことがわかる。
ホテルは、本館と別館の2つの建物から成り立っており、本館は戦前から建てられて由緒正しいコンクリート建築である。中に入ると、真っ赤な絨毯と、昔から使われているだろうと思われる、重厚なソファセットを使った応接ロビーに出くわし、一般素人からみたら、いきなりド肝を抜かれてしまう。こんなところに若造が泊まることは、100年早いわ!とホテル側から客を選別されているような気になってしまうくらい臆してしまう。しかし、そんなビビリの客に対して、即座にホテルスタッフのひとが気づいて、客があたふたしないように、そしてどっしり構えていてほしいという意味をこめて(いると思うが)、宿泊者および訪問者に対してフレンドリーな対応をしてくれるところがうれしい。大きなホテルだと、客が右往左往してどうしたらいいのかわからないような状態に陥ったり、またはホテル側が、「お前みたいな奴がこんなところによく泊まれる資格があるよなー」というのを無言で訴えてきたりするところがあるのだが、ここでは全く存在しない。むしろ、「ようこそ、我が家へ」という、田舎の民家で経営している民宿のような雰囲気を出してくれるところがいいのだ。しかし、民宿と決定的に違うのは、スタッフの躾の良さだろう。身だしなみから、接客態度、そして姿勢があまりにも正しいのだ。まるで台北の忠烈祠にいる衛兵のように、普段、客を応対していないときの姿勢が見事なまでにシャキッとしていることに驚かされた。こういう光景を見られるのであれば、リピータができるのは必然的だと感じた。
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浴室は、昔ながらのユニット系の良くそうなのだが、ちょこちょこと現代風にリノベートしているのでおもしろい。まずは、シャワーのところだが、一般的なシャワーの口ではなく、最新のシャワータイプの、細い管形式になっていた。また、洗面台はとても低い位置にあるのだが、蛇口が一般的な廻すタイプではなく、壁からスイッチが出ているものを押して出すタイプになっていて、これはすごいと思った。また、トイレは当然ウォシュレットだし、アメニティもRENOMAブランドで統一されたものが用意されていた。
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ある。部屋を担当していたお姉さんは、どこか田舎臭いところがまだ残っていて、言葉遣いもまだ都会言葉になっていないというのも愛らしい。実際に提供されたご飯は、好みの薄口味で、丁寧に作られていて、とても満足であった。減点のつけようが無い朝食というのは、久しぶりのことだった。
ホテル自体は決してあたらしいものではないので、建物自体はどことなく野暮ったい気がする。しかし、それは歴史をはぐくんできた証拠として、ホテル全体を楽しんでもらえればいいと思う。なお、ホテル全体は、禁煙・喫煙を徹底的に分けているため、タバコ嫌いの人にとってはとてもいいホテルだ。ホテルをくつろぎの空間ととるか、エンターテイメントの一部と観るかは、その人の主観によるのだが、いずれにしてもこのホテルが日本のホテルの中で一目置かれているという理由が、実際に宿泊をしてみて今回はっきりわかった。もし、東京に住んでおらず、東京で宿泊しなければならないのであれば、是非このホテルに宿泊したいところである。どの外資系ホテルに比べても遜色はなく、むしろ勝っているのではないかと思う。
山の上ホテル
URL : http://www.yamanoue-hotel.co.jp/
Address : 〒101-0062東京都千代田区神田駿河台1-1
Tel(03)3293-2311
山の上ホテル物語
常盤 新平(著)
出版社: 白水社 (2007/02)
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