台湾で2008年の夏休み映画として空前の大ヒットした映画「海角七号」は、メイキャップアーティストのトニー田中の娘が主人公として活躍したり、歌手の中孝介が出演した映画としても日本でも話題になっていた。ネットでもダウンロードは出来たとは思うのだが、実はなんだかんだいってこれがダウンロードできない状態だったために、どういう内容の映画なのだろうというのは気になっていた。ウェブでは大体の内容は知っていたのだが、大ヒットになるということは、どういう点がヒットに結んだ内容なのかというのは知りたかった。
台湾に行ったときにDVDでもあれば買えば良いかなと思ったのだが、結局手に入らない状態だったのだが、本屋でたまたま見つけたのが書物版の「海角七号」である。
内容をあまりしないでネットでいろいろ書かれている内容だけを勝手に鵜呑みにしていた最初の印象は、へっぽこバンドが台湾の南にある屏東の村でサクセスするストーリーと、敗戦により台湾から撤退する日本人との間にできたラブストーリーを無理やり絡ませた映画だとしか思っていなかった。
ところが、実際には登場する人物全員が映画の中ではとても重要な役割を持っていて、話の裏側には、人間関係というのは偶然の重なりによって成り立っているということだろう。それと、人間にはいろいろな過去を背負っており、その過去と上手につきあっていけるか、それとも過去は忘れて前向きに進んでいくだけかということを考えさせられる映画だったと思う。
もちろん、映画の背景には、日本の敗戦により日本へ強制帰国しなければならなかった日本人教師と台湾人学生という古い時代の出来事を、手紙という形で離れ離れになってしまった間を詰めていきたかった残りが現代にも「偶然」娘が発見して、そのなかで出てきた相手というのは一体どういう人なのかということから話は始まる。せっかくの手紙は本来送り届けるべき相手に送る必要があると考えた娘が、いまは存在しない台湾の土地の住所に送っちゃうことで、現代に時代は戻り、台湾でどたばたが始まるというもの。このドタバタ自体が、また個性あふれる人たちで構成されていて、よくもまぁ、こんな小さな場所にこれだけバラエティな人が「偶然」にも集まってくるものなのだろうか?というような内容である。話の中心は、台北で一旗上げられず、夢破れて故郷に戻ってきた歌手と、これまた日本から留学のついでにモデルになった、中途半端な顔の日本人が、モデルではなく結局台湾人モデル達が現場で活躍できるために、半分マネージャー的な役割になってしまって、もう日本に帰りたくなっている日本人女性が展開する話だ。
今回は小説版を読んだだけなので、実際に小説に書いているような内容をどのように映像化したのかというのは、まだ映画を観ていないのでなんともいえないのだが、文章だけを読んだだけでは、一気に読みふけてしまったし、台湾の中の残された日本と、台湾が本来から持っている温かみというのも小説に登場する人物のキャラクターを通して、それはよく感じ取ることができたし、特に台北のような都会で繰り広げられる人間関係ではなく、南部のそれもド田舎といってもいいような場所での心温まる人間関係がなんとも楽しそうに脳裏に映った。
本を読んだだけなのに、なぜかやりとりがされている、行ったことも無い場所の景色が見えてきて、映像の中で演技している人たちの顔を見たことがないのに、どういう感じの人が演技しているのかというのを久しぶりに脳みそを使って妄想ゆんゆんに働かせた気がした。そして、この小説を読んで、輝く太陽と綺麗な海がある墾丁の国定公園に行ってみたくなった。
海角七号 ~君想う、国境の南~
原作:魏徳聖
小説:藍弋豊
訳:岡本悠馬, 木内貴子
出版社: 徳間書店
出版日:2009/12/17
単行本 : 256ページ
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