2011/02/12

十七歳的天空(映画)

2004年に中華圏で大ヒットした映画「十七歳的天空」は、ゲイに対して寛容的になってきている台湾社会では、喜劇として作られた映画であり、同世代のひとたちにも共感が得られると共に、それまで、ゲイに対して少しでも偏見を持っていたような人たちにとっても、ゲイの若い子も相手が単に同性だったというだけで、基本的にはノンケの若い子と同じようなことをしているものだというのが大いに受け入れられたものだ。しかし、上映に関しては各国ではかなり反応が違っていて、特に、「清潔・潔白・純粋」ということを国義のようにしているシンガポールでは同性愛の題材だからというだけで上映禁止になった経緯がある。日本での反応はどうかというと、一部の世界では話題になっては居たが、全国の大箱でロードショーということにはならず、マニアックな映画のみを上映するような映画館でのみ上映された。

しかし、この映画に出演している人たちは、その後の台湾映画および台湾芸能界、もっと広義的に言うと中華圏全体で活躍する俳優人がほぼ全員出演していると言うところも面白い。特にこのあとすぐ日本でも人気になり、すっかり最高潮まで上り詰めたがいまではどこでなにをしているのかわからなくなってしまった陳柏霖も実はここにチラッと出演している。

主演格の人たちにスポットを当てるとすると、主役の周添財(ティエン)役をしているトニー・ヤン(楊祐寧)はもうすっかり台湾のスターである。ただ、この映画でポッと出てきた俳優というわけではなく、それまではCMモデルとしても活躍していたし、テレビドラマへの出演としても活躍していた。一番のヒットは間違いなく十七歳的天空なのだが、それと同時期にプロモーションビデオとして、周華健の「傷心的歌」に出演したことも大きかったと思う。十七歳的天空も傷心的歌も、どちらも映像としては同性愛的要素だったことが、一般の人に衝撃を与えたことなのだと思う。特にプロモーションビデオは、曲もヒットしたのだが、プロモーションビデオ自体が曲を別にして一人歩きしたようなところがあり、昔でいうところのピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)の「スレッジハンマー(Sledgehammer)」のPVみたいに話題騒然となったことが思い出される。そんな映画とPVのおかげで、すっかり「トニーヤンはゲイである」という意味不明なレッテルを貼られてしまったのだが、実際には全く彼はゲイではない。そのあと、いろいろな役柄を演じるようにしているのだが、どうしてもこの映画とPVの印象からは、一般人は印象を抜け出せず、岩下志麻を見たら「極妻シリーズだ」と思うくらいの脳裏を植えつけてしまったのは、彼のこれからの俳優生活には支障だったかもしれない。が、それでもいろいろな役を演じることで払拭しようとしている努力はしている。

映画の中のもう1人の主人公であるプレイボーイ役を演じたダンカン・チョウ(周群達)は台湾人ではなく香港人である。映画の中でもビジネスパートナーであるジュンとの間は、たまに広東語で話している場面が出てきて、他の役柄から「やいっ、広東語で喋るな。わかんねーじゃないか!」と怒鳴られる場面もある。このダンカン・チョウは、この映画のあと、飛輪海のメンバーが出演したテレビドラマ「花樣少年少女」で出演したのだが、あまり台湾の映画やテレビドラマで拝見することは無かった。

映画としては、田舎に住んでいた高校生が夏休みの良い思い出を作るために、台北にやってきてひと夏の経験をしてしまうというもの。それも相手が、台北のゲイの間では誰もが知っているプレイボーイで、やったあとはすぐに捨てられてしまうという色男。妄想癖100%の高校生のガキが都会にやってきて、年上の金持ちリーマンとの恋愛に発展してしまうということは、それ自体がもう喜劇であるとしかいえないが、脳みそのなかに花が咲きまくっている高校生にとっては、雑誌や本でしか知りえなかったことが本当のことだと思い込んでいただけに、現実の人間関係にぶつかってしまうと、困惑してしまうというのも良くありがち。しかし、この映画の面白さは、この主演2人の周りに居る人たちだろうと思う。ドラッグクイーン丸出しという人もでてくれば、ゲイバーに勤める友人も出てくるわ、ジムのインストラクターのゲイも出てくれば、普通の世界でも「いる、いる、そういうひと」というような人たちがたくさん出てくるのである。それも誇張して。そこが面白い。

映画としてはとても面白いものなのだが、肝心の書物になったものが刊行されて、内容を読んでみてがっかりした。というのも、映画の内容で場面の都合上映像化できないような内面的な表現が文章化してくれるのかとおもって期待したところ、それが全く無い。ほとんど映画の内容をそのまま文字化しただけのところなのだ。こんな本は読む気にならない。だいたい文庫本になったのはいいのだが、その中身が、まるで水嶋ヒロのような小説みたいに文字がデカい。なので、横浜から湘南新宿ラインで新宿に到着するまでに読み終えてしまったくらいの内容である。内容を知っているからということもあるのだが、内容が薄いのである。映画の補完に過ぎないのだが、補完にもならない。ブックオフで100円のワゴンセールで売られていたから買ったようなものの、こんなもの定価の590円を出して買いたいとは全然思わないものだ。

小説から映画になったものであれば、小説はかなり内容が濃いものなので読み応えがある。しかし、概して映画が初めで、あとに小説が刊行されたものに対しては、全くといっていいほど内容がヘタれなので読んでいる時間がもったいないとおもうくらいである。この本はさっさとまたブックオフに売ってしまいたい。


小説「僕の恋、彼の秘密(原題:十七歳的天空)」
著者:チョン リン
翻訳:松繁 梢子
脚本:ラディ ユウ
出版社: 竹書房
出版日:2005年12月9日


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