2011/03/19

紫禁城の栄光

北京は昔から交通と交易の要所であった。戦国時代に燕という国が支配したことにより、北京あたりの呼称をそれ以降「燕」と呼ばれ、その地域を治めることになった王は代々「燕王」となる。時には皇帝より封ぜられる場合もあるし、自ら王と名乗る場合もそうだ。交易の要所というのは、満州エリアで取れる毛皮などと、黄河流域で取れる小麦との交換である。その北京を首都とした王朝は、大きなところでは、元以降の王朝である。しかし、元の場合は、本当の首都はモンゴル地区であり、北京を首都としたのは漢人を封じ込めるために戦略的につくり、1年の半分はそこに滞在していたというときに使われた。本格的に北京を首都にしたのは、明朝以降である。

本書は、その明朝以降の北京を中心とした東アジアから中央アジアにかけての歴史を駆け巡る書物である。中国の歴史だけではなく、満州エリアやモンゴルエリア、そして時にはカザフスタンあたりの中央アジアやチベットや雲南地域まで含めての攻防を述べているので、視野を中華世界だけではなく、もっと広い地域として理解しなければならない。もちろん、その歴史の中には日本や朝鮮が当然入ってくるのは言うまでもない。講談社学術文庫らしく、この書物については、明朝以降の本当の歴史について、これまで曖昧だなとおもっていたようなことをきれいに整理してくれる書物だと思われるので、題名の「紫禁城」に惑わされず、是非東アジアの歴史を知りたい場合には読むべき良書だと思う。

明朝の初期は南京を首都とする国家つくりをしていたが、第三代皇帝の永楽帝のときに北京が首都になる。それは永楽帝が父親の初代皇帝により、最初に封ぜられていたのが北京を中心とする燕地域であり、前王朝のモンゴルの生き残りが常に中華平原にちょっかいをしかけてやってきたのを武力で抑えていたことが始まりである。住み慣れており、部下の人間も北京を中心とした地域に住んでいたものを使っていたわけだから、いきなり皇帝になるために南京の穀倉地帯に移動するということになると、故郷を寂しがる部下も多くなるわけだし、住み勝手がわからない南京よりも慣れている北京で南の華人地域に対してにらみをきかしたほうがいいというところで北京が発展し始める。そして元が北京を首都にして使っていたときの跡を永楽帝がどのように使っていったか、または官僚機構をどのように形成したかというのがここでは結構詳しく書かれているのでわかりやすい。

明朝の滅亡は倭寇の駆逐や東北からの他民族の攻撃、そして日本から朝鮮へ秀吉による出兵によって、朝鮮から「ヘルプ!」と言われたことによる手助けをしたことによって、徐々に疲弊していったことが原因だというのがわかるが、最終的に満州族である清に滅ぼされたとばかり思っていたのだが、実はまったくそれは嘘で、本当は南京あたりから出てきた匪賊である李自成が明朝に対して最後の止めを刺したことが今回の書物を読んで初めて知った。

もし、本当に清が明を滅亡させたのであれば、いまでも北京郊外に存在する「明の十三稜」と呼ばれる明朝歴代皇帝の墓は、確実に暴かれて、めちゃくちゃに壊されたことだろう。しかし、実際には現在でも観光地としてとても有名なところであるということは壊されていないということである。むしろ、清は明の皇帝たちを敬っていたとのこと。なぜなら清がまだ東北地方にいたときに、満州族にとっては明は自分たちの生産物を買ってくれる大きなお客様であったし、自分たちも穀物を購入するために供給してくえっる大供給拠点であったため、持ちつ持たれつの関係だったからである。交易の関係から実は敵対していたわけではないということを知るのも歴史の面白さのひとつだろうと思う。

特にこの書籍がすばらしいと思うのは、あのユーラシア大陸をほぼ全域に渡って牛耳っていたモンゴル族を中心とした元があっさり滅亡したかのように歴史では思われているのだが、実際にはそうではなく、中華の世界からはいなくなったけど、実際にはモンゴル高原を中心に規模は縮小されても生きながらえていたということの事実だろう。ハーンは代々新しく立てられて、そのハーンを選ばれるために内部抗争も続けられていたことを結構詳しく書かれていることだ。こういうのは、まず学校の歴史の時間では教えられるところではない。

さらに言うと、清は最終的にチベット仏教を丁重に扱っており、いまでも北京各地にチベット仏教を基礎とした寺が建てられている。この理由についても書物に書かれているのだが、ここで大事なのは、ダライ・ラマとパンチェン・ラマの存在だろうと思う。この2つの役職は、大昔から存在されているわけじゃない。何もない貧相な土地のチベットがそれなりの生活物資を得るためには、仏教という手段を世界各地に普及して、その信者をたくさん作り、お布施を巻き上げることで金銭的に豊かにし、それで物資を裕福な土地から購入するという手段をとっていたということ。精神的なものが実は経済的なものに大きく絡んでいて、それを清が紫禁城にいる皇帝によって保護していた事実を知っただけでも面白いと思う。

よって、題名からみると、紫禁城で起こった何がしかの浮き沈みを期待して読んでもらうと、書かれている内容が大きすぎるので、消化不良になる。題名には気にせず、広い視野を持ってアジアを知るために読むと思わないと、この書物はとてもじゃないが読めないと思う。が、内容は確かに濃い。だから頭の整理のために明朝から清朝にかけての歴史を知るために読むべきである。

紫禁城の栄光―明・清全史
著者:岡田 英弘/神田 信夫/松村 潤
文庫: 352ページ
出版社: 講談社(講談社学術文庫)
出版日:2006/10/11

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