現在も台湾にお住まいになり、台湾の地理・歴史・鉄道・原住民文化、グルメ等々、台湾に関して「なんだろう?」と思うようなことを幅広く解りやすい言葉で紹介している第一人者としては、片倉佳史さんを置いて他に居ないと思う。台湾に関する紹介なら、他に哈日京子やブサイクの青木由香みたいな人も居るのだが、彼女らは食べ物とグッヅのことにしか特化しないような情報しか記載しないので、台湾でもベトナムでもどこでもよかったんじゃないのか?というような内容になっている。たぶん女性目線でしか台湾を見ていないところが悲しい結果になっているんだろう。しかし、片倉佳史さんの内容は本当に幅が広く、内容が濃い。内容が濃すぎて、よくもまぁ文庫本や新書版の本で納まるなーということを毎回感心してしまうのである。
その中でも今回は「台湾に生きている『日本』」を紹介したい。
日本が台湾を統治していた時代は50年間。その50年間がいかに台湾に日本文化を根付かせ、そのあとに大陸からやってきた大中国の中華民国が、日本色を払拭しようとしていたかというのを、遺跡の面や精神面、そして言語や思想の面から、いまだに台湾に「日本的な」ものがどんだけ残っているのかというのを総合的に紹介しているのがこの本である。
台湾を旅行したことがあるひとなら本当によくわかることだと思うのだが、どこに行っても結構台湾では日本語が通じる。それも南部に行けば行くほど日本語が使える場合が多く、若い人は音楽やアニメを通して日本語を学ぼうとする人も多いのだが、統治時代に日本語を学習教育として徹底的に仕込まれたひとがまだまだ南部のほうには多くすんでいるし、そういう人たちは「統治されていた」という意識により日本語を使いたくないと思っているのかと思っていたら、そうではなく、むしろ、積極的に日本人が来た場合には日本語を使いたいと思っている人たちが多いというのに驚かされることが多いだろうと思う。それほど、日本文化というのは戦前の人たちには心深く残っており、そのあとの蒋介石政権がいかにめちゃくちゃなことをしたかで、「やっぱり日本が統治していたほうが良かった」と住民に思わせたのかということがわかるのだろう。
まぁ、そういう時代拝見は別にして、日本が統治していたときの名残を徹底的にぶっ壊そうと蒋介石政権のひとたちは思った。碑はぶっ壊すか、表文字を削ってなんのものだったかの証拠を消そうとしたら、神社仏閣は「帝国主義の悪の根源だ」と称して徹底的に破壊をした。そのあとに作ったグロテスクな建物がたくさんできているのは周知の通りだが、それでも残った建物はたくさんある。そういう残された素晴らしい戦前からの建物というのは本当に風格があって、是非ずっと残していきたいとおもうのは当然だろう。これは本省人だろうが、外省人だろうが、いいものは良いと思うのは当然だ。最近台湾に根付いている「台湾は台湾人のもの」という意識が高まったことは、古き時代から台湾にあるものを残そうとしている運動に繋がっているので、古いものはぶっ壊して新しいものを作っていこうという大陸の人たちとは全然違う動きである。
片倉さんの調査によると、駅舎や博物館として使われている建物だけではなく、その同じ敷地内に、実は誰の眼にもあまり触れないところに、すごい日本の名残が残っているのだと改めて認識してしまうものがたくさんある。また、かつての建物をぶっ壊してしまったのだが、その土台になっている部分だけは残っているというような、時間が経ったら風化してしまうようなものを結構たくさん紹介しているというのは、実は学術的な調査に匹敵するのではないだろうか?台湾人自体が積極的に台湾に残る日本文化を残そうとするならいいのだが、日本統治時代のひとたちもだんだん亡くなってくるわけで、忘れ去られた日本の遺跡も風化していくことだろうから、是非どんどん台湾人も積極的に日本の遺産を残していったほうがいいと思う。
また、日本の建物だったところを、中華文化と奇妙にミックスして建物化したものもたくさん実は台湾に存在していたりする。こういうところは、ちょっと見ただけでは実は観光客にはわかりにくい。事前に知っていたうえで、その建物をみるというと、また格別な違いが出てくるだろう。それも台北や高雄という大都市だけではなく、買い物や食べ物やマッサージをするために台湾に来るというのではなく、台湾全体に残っている日本文化を探索するために渡台するのもいいことだと思う。是非自分も時間があったら、片倉さんの本を片手にいろいろなものを見てみたいものだ。
道教信仰者が多い台湾でも、日本の神道文化として、実際の人物を死んだ後神格化して祀っているというところもあるというのは感心した。義愛公という名前で親しまれている神様は、実はもと日本の警官。地元の台湾人に教育と公安の面から真剣に支えていた人で、台湾政府(日本の植民地時代)が住民に高額の税を納めるように法令をだしたとき、貧しい場所だったところでその重税は無理だと、政府に警官なのにたてついた人である。本来なら政府のお達しに政府の番犬として住民から税を搾り取らなければならない立場のひとなのに、住民に成り代わって訴えたわけだ。結果は「おまえはアホか」と言われ懲戒処分を受ける。そして住民に税が課せられる。住民を守れなかったことでこの警官は自ら火縄銃で自殺するのだ。こういう話は一般的なガイドには記載されない。しかし、住民にとっては末代まで語り継がねばならない重要事項であることはよくわかる。そして神様として毎年拝んでいる人がいるというのも事実だ。こういう細かいところにも眼を配って調査されている片倉さんのフットワークの軽さというのは本当に素晴らしいと思う。
そのほかにもこの本にはいろいろな逸話も紹介されているので、台湾の現地の人と話す機会がなくても台湾のよさを知りたいひとは是非一読いただきたいものだ。また、巻末には台湾の地元の言葉になってしまった日本語の紹介が結構ある。これをみると、バカにする言葉もそのまま台湾語等に残っているので、あまり台湾では日本に居るときと同じような感覚で罵倒するような言葉を使ってはいけない。そうじゃないと、日台のハーフタレントであるmakiyoみたいに、「ばかやろー」という言葉を使ったことが報道されて、芸能界から干される可能性もあるからだ(笑)。
これからも片倉さんにはたくさんの台湾の素晴らしさを日本人に紹介していただきたいと思うし、幅広い知識と情報で楽しませていただきたいと思うところだ。決して食べ物や雑貨ばっかりのつまらない台湾情報ばかりを紹介するようなつまらない人にはならないでほしい。
台湾に生きている「日本」
著者:片倉 佳史
出版社: 祥伝社
発売日: 2009/2/27
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