2012/02/10

議員秘書という仮面(書籍)

上杉隆氏は、元国会議員秘書の経験を持っているので、国会議員および議員秘書のことは良く知っている。特に、IT技術とは全く違って、ほとんどアナログで泥臭いような世界というのは、いつの時代でもそれは変わらないものだから、上杉氏が秘書だった時代と今でもほとんどそれは変わらないだろう。そして、一般人から見ると、国会議員の秘書というのは、なにをやっているのか本当によくわからないし、時には議員の罪を被って逮捕されたり、ひどい場合には自殺したりするようなことの対象者として映っていることだろう。そんな国会議員秘書に特化して、一般人にもわかりやすいようにまとめてくれているのがこの本「議員秘書という仮面」である。

この本を読んで初めて知ったことがたくさんある。まずは、国会議員の秘書というのは、実は全部まとめて秘書といわれるわけだけど、その秘書にも実はいろいろな種類があって、公設秘書と私設秘書があり、国家公務員の役割をしているひともいれば、そうではないひともいるということである。そんなに種類がたくさんあるのかーというのを見たわけだが、大体の場合、秘書になる理由というのが、将来政治家になるための布石として、経験を積みたいが為に秘書になっているということのほうが正直ショックだった。もちろん、議員が議員として仕事をするための名前の通りの秘書をするひとに終始する人もいるのだが、実は野望に満ちた人がたくさん政治家予備軍として君臨していたことだ。国のためとか、地域の為にということをいの一番に考えているのではなく、己の野望の為に望んでいるという人が多いことが、この国の政治家の無能さの根源があるんだなというのがよくわかった。

そして、秘書といっても、政策秘書と身の回りを世話をする秘書と二種類あるというのもへーっと思ったのだが、秘書の全員が政策秘書の役割を演じているんだろうと想像していたので、こちらもある意味小規模の衝撃を得た。確かに身の回りの世話をする秘書には、要領の良さが必要だが、政策秘書に関しては、幅広い知識と政治的駆け引きが出来る人じゃないとそれは務まらないのでキャラクターが異なるのだろう。

あとは給料。辻本清美が秘書名義の給料を二重取りをしたりした事件があったが、そのからくりと背景が描かれていてとても解りやすい。これなら議員が秘書を犠牲にして金をふんだくっているというのがよくわかるというもの。だいたい秘書から給与を巻き上げて、それを別の秘書の活動資金に廻していたりするのが根本的な原因なのだが、そこまでしてたくさんの秘書を使わないと自分の政治活動ができないというような仕組みになってるのがおかしい。そこまでして議員が秘書をたくさん使う理由というのは、政策のために奔走するというのではなく、次の議員選挙でまた当選するためにだけ地元にも議員の代わりに地元地域を走り回る人が必要だからである。ここにも、国家や公的な成長のために議員をやっているのではなく、議員は議員であり続けるために議員活動をしているということが原因である。こんな政治家ばっかりが日本の政治家の本性であるということを知ってしまうと、国会中継でなんやかんやと議論しているおっさんたちの腹黒さばかりが目に付いてしまって、テレビ中継の場合だったら、画面を叩き割ってしまいたくなるような心境になるだろうと思う。「なにしとんじゃん、国会議員は!」と。

一般的な秘書の仕事と、議員との関係については、書物の前半部分でよく理解ができる。しかし、「首相秘書官」という特殊の秘書というところについては本当にわかりにくい。最近で一番有名な首相秘書官は、小泉純一郎元首相の秘書だった飯島勲秘書だろう。秘書というのは表に出てこないというイメージを一新した人であり、アメリカのようにメディアを上手に使った手法と、首相の行動を「劇場型」と呼ばせるくらい首相がパフォーマンス化したように見せた影の功労者である。小泉純一郎が首相だった時代について、賛否両論であるのはいまだに言われることだろうが、日本を元気にさせようとしていたことだけは賛否両論派のどちらにしても賛同できることだろうと思うし、なにをやっているのかわからない国会とその閣議の内容を全部表に出して国民の目に知らしめたという意味では大きな功績だったことだろう。秘書というのは、パフォーマである議員の脚本家であることは言うまでも無い。飯島秘書が行ったことは、それまでのお付きの議員記者が「こうなるだろう」ということを全部覆すことにしたことはいいことだ。だから、記者クラブの人たちにはとても嫌がられた。記者クラブの汚い組織団体っぷりについては、上杉隆氏の別の書でたくさん書かれているので、そちらをみたほうが詳しい。

影の功労者として有能な秘書についても紹介されている。田中角栄の秘書だった大間幸一、中川一郎の秘書だった鈴木宗男、あのムネオハウスの宗男である。同じ田中角栄の秘書だった人で、後に勘違い政治評論家になった早坂茂三は良い秘書ではなく、自分が権力者のしたで働いたことで、自分にも権力が入ってきたと勘違いした大バカ秘書の1人であると紹介している。それはテレビ画面を通してみても、早坂茂三が出るたびに、その醜態が十分に出てきているので感のいい人は良くわかっていることだろうと思う。ただ、大間幸一と鈴木宗男の2人は、本当にすごい秘書だったようだ。秘書の中でもお手本にするべき秘書だったというのは、いまだに語られることである。ムネオは最近捕まってしまったが、それは秘書のときにやっていた強引なやり方を踏襲してしまったために、他の議員の不評を買って仕組まれたのだろうというのは容易に想像できる。そこは政治家同士の世界なので、足の引っ張り合いをするのは当然なのだろう。

所詮、国会議員も大きな組織の中での競争に成り立っている人たちである。会社の出世競争と同じように足の引っ張り合いや、互いの欠点探しに付いて情報戦になっているのは確かだ。その権力闘争の中で常に秘書が議員に代わって走り回っている。その秘書も己の欲望の為に秘書になって、短期間ながらも丁稚奉公をしているのだというのを知ってしまうと、なんだか馬鹿馬鹿しくなる。選挙期間中のときだけ、街頭で「なんとか勝たせてください、お願いします」と政策主張よりも、お願いします、お願いしますとだけ連呼しているバカ候補を見ると、死んでしまえばいいのにと思うのだが、それに加担している秘書と応援者も一緒になって死んでしまえばいいのにと本当に思ってしまう。その感覚的に思っていたことが、この本ではすべて彼らが何をするために活動をしているのかというのが明確にしているのであるので、本当に議員および秘書になっている人たちを敵に廻しているなーと思った。

議員秘書という仮面―彼らは何でも知っている
著者:上杉 隆
出版社: 小学館
発売日: 2002/07/01

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