2010/08/22

食は広州に在り

中華文化の書物を読んでいると、どうしてもやっぱり食べ物と金のこと以外で物事を考えられないということにとても気づく。金のほうはどうしても拝金主義的なところが、少しいまだに馴れない気がするが、食べ物に関しては、食わなきゃ死んでしまうという意味では国籍に関係ないため、食に関する書物を見ると、妙に納得したり、へーそうなんだーというような驚きがあったり、んなわけないだろうというようなツッコミをしたくなるのは、容易にできる。

有名経済作家であり、かつ料理にも造詣が深い邱永漢氏による「食は広州に在り」という本は、食通による薀蓄の総決算というべき書物だと思う。この本では、長く華南地方に生んでいた関係上、広東料理を中心としたいろいろな料理のことが背景と一緒に紹介されている。ご本人は台湾生まれで日本で学位を取得しているから、食の宝庫である台湾料理でもいいと思うのだが、やはり見た目豪華な広東料理が中華料理の醍醐味でもあるために、あえて広東料理を紹介している。

さすが作家であるだけで、そのへんにごまんと居る料理評論家よりは、ずっと造詣の深い批評と好評を述べているところが、読者側が料理を知らなくても想像力を掻きたててくれて、絵や写真が一切出てこないのだが、文章だけでもよだれが出てきそうなものだ。

さらにいうと、この本では、どこどこの店のどの料理が美味いというようなことは一切ない。一般的な広東料理を紹介し、その広東料理にまつわる背景を紹介するとともに、中国人がその背景を保持するようになった歴史的なつながりについても説明してくれるので、料理を通じて中華文化の歴史も知ることができる。だから、料理の本なのか歴史の本なのか読んでいてて、途中でわからなくなるところも出てくるが、知識と教養が身に付くという意味では名著だろうと思う。そして、料理といっても、特定の料理が出てくるわけではなく、「麺全般」とか「あわびにまつわる話」とか、「宴席とは」とか、広東料理を食する上での必ず通ることになる各種のしきたりについても述べているところが、異文化を知る上ではとても重要な資料だと感じた。

ぜひ、香港にまたいく場合には、再読して広東料理を堪能し、地元の香港人に「これって、こういう意味だと知ってた?」と知ったかぶりをするのもいいかもしれない。嫌がられるかどうかはその人の個性しだいだが。

食は広州に在り
著者:邱 永漢
出版社: 中央公論社
文庫: 229ページ
発売日:1996年9月18日

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