金田一京助のアイヌ研究に関する発表集については、以前、本のレビューとして記載したのだが、これも参考にしつつ読んでいて楽しいと思われるのが、元埼玉県の職員で引退を機にアイヌ語を独学で勉強をしてまとめたという著者が書いた「アイヌ語地名で旅する北海道」というものである。
金田一京助の本は、アイヌ全般についての記録論文なのだが、この本はアイヌ語、それも土地とアイヌ語の関係だけにフォーカスを当てたものであり、今でも日本の地図を広げれば知りえることが出来る情報を一般的に解説してくれているものである。北海道の地名はほとんどアイヌ語からの引用で出来ているので、いまは漢字+日本語読み化されてしまっている、町の名前、川の名前、山の名前、岬の名前などなど、あらゆる北海道の地名に付いての言語学的な解説がこの本を読めば分かる。
確かに北海道の地名というのは、漢字で書かれていたものをそのまま読んでも読めないことが多く、北海道の人はこれらの地名はごく当たり前のように知っているものなのか?というのが毎回気になって仕方がない。たぶん北海道の人にとってはありふれた名前だったりするのに、本土の人間にとっては有名なところ以外は全くわからないというのが仕方ないが、それもやっぱりアイヌ語が影響しているので、大和言葉ではない言葉をもともと知らないのであれば、それがどういう意味でそういわれているのかという根本的なところから知るのもそうだが、まず読み方が分からないと、そこの場所にも行けない。これは台湾を旅行したときに、日本でも通用する漢字を使っているのに、読み方が全く分からないから、筆記で会話をしてしまっているのとなんとなく似ている。
筆者は地名を1語1語分解して、その土地がどうしてそういう名前になったのかということも踏まえて地名解説をしている。だから、北海道に行かなくてもこの本を読めば、北海道全域の土地について知りえることができるというものだ。ただ、この本を読む前には、金田一京助の本を読んで、土地の名前によく使われる単語集を知った上で本書を読んだほうが良い。なにしろ、単語の意味は書いているが、似たような意味を持つ違う読み方の単語について整理をしていないからであり、読み進むにつれて「あれ?この単語の意味、他にも出てきたよね?」というのが結構あちこちで出てくる。その単語の違いについては金田一京助の本のほうに詳しく記載されている。
北海道の地名には漢字表記されているものは多いが、漢字表記じゃなくカタカナ表記になっているものも結構ある。漢字はもとよりカタカナ表記は、アイヌ語の名前を無理やり文字化しているために、本当のアイヌ語とはちょっと違う言い方になるのだが、もうアイヌ語を自由に操れる人が少なくなってきている現在では、文字化してしまったアイヌ語のほうが実アイヌ語なのではないかと思われるようになっている現在が悲しいところではある。しかし、アイヌ語というのが消滅の危機を迎えているとはいえ、土地の名前としてアイヌ語がまだ生き残っているというのは嬉しいことだ。漢字表記化しているのは、カタカナ表記化したものをさらに変化させて無理やり漢字にしたものなので、原語がなんなのかを追求するのは結構困難な状態になっているところもある。それでも筆者は調査と学術的検知から1つ1つ積み重ねて明確化しているところが素晴らしい。
地名を知れば、そこがどういう土地なのかがわかるとはよく言ったものだ。北海道の地名は、すべて土地の名前に、その土地がどういう特長があるところなのかというのを明確化しているものだ。平成の大合併等で市町村単位で合併があったりするために、それを期に地名が変わったりすると、もう土地の特長がその時点で切れてしまう。北海道の土地がどの程度統廃合によって本来のと地名を失っているのかはよくわからないが、筆者のような人が忘れられる土地の名前を収集し、それを整理してくれているというのはとても喜ばしいことである。
アイヌ語地名で旅する北海道
著者:北道 邦彦
新書: 259ページ
出版社: 朝日新聞社
発売日: 2008/3/13
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