2013/02/02

海外ローミングサービスの末路

以前は、自分の携帯電話を持っていってもそのままでは利用できず、空港や現地で、その地で使える携帯電話に取り替えて利用するという方法しかなかったのだが、あるときから自分の携帯電話をそのまま海外に持って行っても、自分の日本での電話番号のまま渡航地で受けることが出来るし、渡航地からも日本や渡航地の国内に電話することができるという仕組みができるようになった。これは携帯電話を現地での連絡として使うときには非常に便利になったことは言うまでも無い。ただし、携帯電話の普及はできたのだが、なぜか日本で使っているときには電話よりも携帯電話会社のメールでやりとりするというメッセージ主体のコミュニケーションを海外で行おうとした場合には、海外では携帯電話会社のemailサービスというのが皆無に等しく、携帯電話でメッセージのやり取りをしようとした場合には、SMSでしかやりようがなかった。これではSMS自体、めちゃくちゃ電話代がかかるし、海外渡航先でSMSを受け取ったり送信したりする場合、一度日本を経由してやりとりするわけだから、1通送受信するだけですごい値段が掛かっていた。これでは使い物にならない。

そのうち携帯電話でもブラウザが使えるようなタイプの携帯電話が海外でも出てくるようになった。日本ではimodeが出てきたときにとっくに出来たことが、あとから海外のほうがそれに追いついてきたということなのだ。だが、海外ではなかなか携帯電話でのブラウザを経由したメールのやり取りというのはほとんど普及しなかった。なぜなら画面が小さいし、それに打つのが面倒くさいというところなのだろう。

ただ、携帯電話ではなかなか普及しなかったのだが、メールの文化と言うのは海外でも普及する。もちろんフリーメールなのだろうが、その発展版として MSN Messenger や Yahoo Messenger というのは普及した。これにより海外の人たちとは随分身近に会話が出来るようになったと思うし、もちろん海外にいながらにして国内の人と会話ができるようになった。その延長として出てきたのがSkypeだ。Skypeは文字メッセージはもちろんのことだが、どちらかというとアプリケーションを使った音声通話というのがメインとなるツールである。これが抜群に音声がいい。MSN Messenger でも Yahoo Messenger でも音声通話はできたのだが、途中のサーバが重いと全くこれが使い物にならないくらい音質が激悪になる。携帯電話の世界で既に音声通話が悪くても仕方ないということを考えるようになった下地は世の中出来上がっているとはいえ、MSN や Yahoo の音質は悪すぎた。音声が通ることができるという程度でしかなかったわけだ。Skypeの場合は、どんな環境でもこれが十分耐えうるくらいの音質になっていたので、人間のような耳では特に不都合には思えないくらいの音質で会話ができるのは便利だった。ただし、これはSkypeに登録している人同士でしかできなかった。

状況が変わってきたのは、SkypeがそれまでSkype同士のツールだったのに、Skypeから一般電話番号との通話が可能になってしまったことによる。Skypeはルクセンブルグの会社であったが、その国のゲートウェイまではインターネットを使うために、実質どこの国からかけても、相手の国がどこであろうとも、そこの国のゲートウェイまでは無料のインターネットであり、そこから国内料金で通話ができるというのがメリットになる。これで海外から電話をかけようとした場合には、自分の携帯電話で自国の人たちに電話するということが無くなり、PCを経由してSkypeから電話するというのが増えてくるようになる。

そこへ登場したのがご承知の通りiPhoneだ。iPhoneの普及により、iPhoneに搭載するアプリの豊富さ、手軽さ、操作性というのが人気の拍車をかけるようになった。もちろん先のSkypeもiPhoneに搭載できるアプリとして世の中にリリースされる。PCだと、その場所でノートPCとはいえ、一度OSを起動してそこで会話を開始しなければならないという面倒くさい状態ではあったのだが、これが携帯電話ならぬiPhoneにアプリが入ってしまうということは、常に手元にある端末から会話が出来るということになる。これにより、海外だけじゃなく、国内での通話についても、相手の電話番号にかけるのではなく、相手のskypeを呼び出して移動中でも会話をするということが可能になった。もちろん、このとき携帯の世界は3G回線であるために、通常のデータ通信の回線を利用して会話をしているということになるのだ。ということは、これまで電話をかけるには料金が従量制で掛かるという状態だったのに、アプリを使って音声通話をすれば、パケット定額料金に加入している限り、どんなに会話をしても無料ということになるわけである。

ただし、ここまで移動性とアプリの融合というのが出来たとしても、海外からの通話の場合には、海外の3G回線を利用して通話をしなければならず、海外の3G回線を使うときには、国内の定額性料金が全く通用せず、Skypeを利用しようとした場合、結局は3G回線を掴んでいる間データ通信をしており、その使用時間に比例して値段がかかるという制約から逃れられない。海外でも3G回線が使える状態は、前から自分の携帯電話で通話ができるという環境でもいえるのだが、これをローミングサービスという。つまり、日本で使っている環境を別の環境でも利用できるようにするサービスのことを指す。

iPhoneよりも前に世界では普及し始めたのが、公衆Wi-Fiサービスである。これを使うと、無線LAN経由でインターネットに接続できるというものだ。最初は携帯電話会社主導ではなく、ホテルやレストランが、集客のために無線LANのAPを自前で用意して、そのAP経由で無線が使えるよーということを宣伝したら、意外と街中にWi-Fiが使える環境が広がったというのが実情で、その環境に通信会社が自前でAPを置くようになったことで、ほとんど海外の主要都市ではあらゆる場所でWi-Fiを捕捉できるという環境は出来上がったということだ。しかし、通信会社が作ったAPだと、その通信会社と契約していない限りにおいてはその通信会社が払いだしているSSIDをなんらかの方法で知ったとしても、IDとパスワードではじかれてアクセスできないということになる。日本ではなぜかWi-Fiの環境の普及は非常に遅く、たぶん通信会社のほうが態と普及させないようにしていたとしか思えない。なぜなら3G回線を利用しない環境は、通信会社にとってはなんのメリットも無く、むしろ回線利用が無いということはおまんまの上がりがないことと同じであるからだ。

しかし、世の中の動きは止められない。特に海外のほうでは、Wi-Fiは無料で一般的に使われるのが当たり前だという風潮が出来上がってくる。特に人が集まるようなデパートや空港を中心に、ショッピングモールはもちろんのこと、レストランや駅なんかも当然無料で使えるWi-Fiが出てきた。旅行者は持っているPCまたはiPhoneそしてスマホを使えば、Wi-Fi経由でコミュニケーションが気軽にできるという環境が出来上がってしまうわけである。となると、ツイッターやフェイスブックなどのツールを使って、文字と画像、なかには動画をその場でアップロードできるという環境ができるわけだから、表現の広がりは大きく広がった。そして、それまではタイムリーに情報が取れなかったのに、いつでもどこでも必要な情報を無料ですばやくゲットできるようになったわけだから、ガイドブックさえも持ち歩かなくても旅行ができるということになるわけだ。これが旅行者目線ではなく、一般住民にしたとしても、ネットにつながるアプリはすべてWi-Fi経由で利用可能であるということは、携帯電話のこれまで頑張って作っていた3G回線を利用せずとも、ネットにつなげられ、ネットを楽しめるということになる。

つまり、海外からの渡航者が自国のモバイルフォンを持っていたとしても、それはローミングで渡航先の通信会社の回線を利用してコミュニケーションをするということから、持っているいかなる端末からもその場所のWi-Fiを利用して気軽に無料でコミュニケーションができるという環境が出来上がってしまった。日本の場合は、通信会社が主導として通信環境を作り上げてきたということがあるが、これまたガラケーの世界と同じように、世界の動きから完全に乗り遅れてしまった。たまたま、ソフトバンクがiPhoneの爆発的な売り上げによって、自社の3G回線を圧迫するからという理由から、レストランや美容院やあらゆる場所にソフトバンクの携帯電話と契約しているひとたちだけがアクセスできる無線APをめちゃくちゃたくさんばら撒いた。これによって、ソフトバンクは自社の3G回線の圧迫を回避することができたのだが、ドコモの場合は自社回線に余裕があったので、Wi-Fi+有線回線を使って無線の回線圧迫を回避するという考えが全く出てこなかったのは言うまでも無い。

海外のひとが日本にやってくると、「なんで日本はWi-Fiの環境がすくなく、そして無料じゃないの?」というのはちょっと前によく聞いた話だ。アジアだけじゃなく、ヨーロッパのほとんどの街でも最近は無料アクセスAPが街中に吹いており、それを渡航者が自由に利用することができる。これでは無線通信会社は商売あがったりだ。でも、この流れは変えることは出来ない。日本でもようやくWi-Fiが普及したのだが、それは日本の環境だけの変革にすぎず、日本の通信会社としては、日本のユーザが海外に行ったときに、海外からローミングを使って海外で自国で通話しているかのような通信をしてくれなくなったことで、ローミングサービスによる通信会社間の手数料収入が全くといいほど少なくなってしまったというのが現実である。

ローミングサービスによる収入が激減したことによって、日本の通信会社は次に「海外に行ったら1日1480円でデータ通信は使いたい放題にできます」というサービスを開始した。ところがこれは最初は「ほっほぉー」と思われて飛びついたユーザは多かったかもしれないが、上述の通り、海外では無料で吹いている無線APがあらゆるところにあるために、この1日あたりの定額データ通信というサービスは、言われるほど使われていないのではないかと思われる。だいたい1日1480円って高すぎだろう。1日あたり100円だったら使わなくも無い。1480円って、国際的チェーン展開しているホテルでもよく24時間15USドルでネット環境を利用できるというふざけたところも結構あったりするが、そんなのは金持ちの道楽でしかなく、金持ちは金をバンバン使えばいいわけだ。みんながみんなそんな金持ちであるわけじゃない。だけど、街中に無料の無線APがあるというのであれば、ほとんどの人がその無線APを使ってネットにつなげたいと思うのは当然である。通信会社の国際的戦略はもろくも崩れた。これを元のようにユーザが通信に金を払うという構造は戻ることは無い。

ますます無料の無線APの数は世界的には増えてくるし、日本でも増えるとは思われるが、やっぱり日本ではどうしても通信会社の縛りというものから逃れることができないようで、APの数は増えてきたとしても、その通信会社と契約が無い限りにおいては吹いて捕まえたAPは利用できないという状態になっている。完全に日本は世界から動きが遅れた。これは海外からやってくる観光客に対して悪いインパクトを確実に残した。観光庁が発表する訪日外国人旅行者の受け入れ環境の章に、「平成23年度第2回訪日外国人旅行者の受入環境整備に関する検討会(平成24年1月30日) 」というのがあり、そのなかで【資料3参考1】外国人旅行者アンケート調査結果がある。これのなかに「旅行中困ったこと」という質問があるが、その答えとして、一番の答えが「無料公衆無線LAN環境」が約37%の人が答えているものである。そう、海外では無線LANは無料で使えるのは当たり前ということになっているのに、いまだに日本では通信会社主導の下で無料では使えないという環境になっているのが、観光客の不満を助長させていることに繋がっているのである。いまは観光客が即座にその場からネットにアクセスして、あらゆる情報をダウンロードするとともに、自分から情報発信するのが一般的になっているのだが、その場という瞬間的なことに無料AP利用ではないことから活動をそがれた印象を訪日外国人は思うのである。これでは観光立国の道は遠いに決まっている。

しかし、通信会社としても商売があがったりになる事業に、わざわざ金をだしてまで整備するのかというとなかなか難しい。ここはやっぱり行政が主導として、街全体にWi-Fiを吹かせて、それを誰でも無料で使えるという環境を整備するということが緊急的な課題なのではないだろうか?これが観光客を呼び込むためのツールの1つであるのは言うまでも無い。もうなんでもかんでも金でやらせるということの時代ではない。無料でどこまで客を喜ばせるかというところに時代は向かっているのである。通信会社もインフラつくりの限界が来ているところだし、これ以上、ユーザから金を取るという時代ではなくなったのは確かだ。あとは、いまだに従量制課金として徴収している音声通話を早く定額化するしかなく、これをしない限り、どんどん国内でさえも音声通話はLINEなどのアプリケーションによる通話にユーザは逃げるのは当たり前である。無料に勝つためには無料で対抗しないと無理だ。

さて、日本の通信会社の正念場が来たことだろう。MBA保有者はどの通信会社もたくさんいるんだろうから、そういう人たちがマーケット動向と今後の通信会社はどうあるべきかということを、フル回転で脳みそを使って考えればなんとかなるんじゃないのだろうか?そのために彼らは会社の金を使ってMBAを取得していたわけだから、今こそ会社に対して恩返しする時代なのだろうと思う。

観光庁 - 訪日外国人旅行者の受入環境整備
URL : https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/ukeire.html

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