江戸時代は、江戸から地方へ、または地方から江戸に向かう際に、箱根の山を越えて歩いていくのは大変なことだったというのは、いろいろな書物に書かれている。現在でも旧道を車で通るだけでも、その急な坂道と曲がりくねった道を体験でき、その道を昔の人はよくもまぁ歩いたものだと感慨深くなる。ましてや、いまでは大学の駅伝大会であの坂道を走って上るようなつわものもいるわけで、改めて凄いなと感じる。
急で長くどこまでも上り道が続くような場所では、どこかで旅人は休憩を入れたくなるのは当然だろう。旧道にはそういう旅人のための茶屋が数軒点在していたようである。今でも残っており、当時の作りと提供しているメニュがそのまま残っているというのは、甘酒茶屋というところだ。
江戸時代から12代400年続いている老舗中の老舗だ。最近リニューアルしてきれいにしたとはいうのだが、どうみても、昔ながらの藁拭き屋根と気の引き戸と障子窓なので、どこがリニューアルなのだろうか!?と眼を疑ってしまうようなものなのだが、全面的に木造で作られていることと、箱根は雪が降る場所であるために、定期的に立替をしないと建物が腐ってしまうからである。古めかしい建物で現代人がお茶を飲むという雰囲気を楽しむためにやって来る人が多いので、これがいきなり近代的なビルで茶を提供するということになった場合には、だれもこんなつまらない旧道に来て、茶を飲もうとしないだろう。昔のひとの過酷な旅路を妄想の中で考えながら、昔の人は提供されるお茶菓子や甘酒を飲んで、疲れた足を休めたのだろうと、天井の高く、柱が無い広間のなかで考えるだけで楽しいことではないだろうか。
ここでのメニュは単純明快。醤油をつけて焼いた餅に海苔が捲かれた「いそべ」と、茶の黄な粉をまぶした「うぐいす」と呼ばれる力餅(いずれも450円)、味噌おでん(400円)、ところてん(450円)、紫蘇または抹茶ジュース(400円)と甘酒(450円)しかない。それ以外は無い。それもカウンターの頭上に、味のある字体でメニュが書かれているだけで、個別にメニュを持ってくるようなスタイルではない。お茶は自由にテーブルの上に置かれたものを飲めばいい。ただし、粋なことに「昔の人は、このお茶を飲むのも苦労しました」と水の出が悪い場所での、水に対する貴重さをありがたく思えというのがその根本的な理由。
それにしても店内の様子は、昔の田舎の小屋にでも来た様な感じだ。椅子やテーブルは、木株をそのまま使っているものだし、エアコンがあるわけがないので、部屋の真ん中にゴーゴーと燃え滾っている巨大なストーブが唯一の暖を採る手段となっているし。店も最終のバス終わるころには閉店してしまうというものだ。ただし、開店時間は意外に早く朝の7時から営業。ちなみに、湯本方面に行く最終バスの時間は16時5分。これを逃すと、タクシーさえも通らないので、帰れなくなる。
旧東海道・畑宿双子山 箱根甘酒茶屋
[URL] http://www.hakone.or.jp/shop/amazake/index.html
[住所] 足柄下郡箱根町 畑宿二子山
[営業時間] 7:00〜17:30
[定休日] 年中無休
0 件のコメント:
コメントを投稿