2013/03/02
パリ・旅の雑学ノート(書籍)
パリに関する本はもう腐るほどたくさん世の中に出ていることは出ている。どれもこれもパリにいる自分ってちょっとハイソな感じがするので、みてみてーっという主張をしているのが結構多いのだが、エッセイストの玉村豊男が書いた「パリ・旅の雑学ノート~カフェ/舗道/メトロ」については、特にパリにいる筆者の様子について書かれているものでは全然ない。目線はどちらかというと、筆者目線ではあるが、筆者がパリで見たものを寄り深く掘り下げたものであり、別の視点から見れば、ガイドブックとしては整理できないパリの様子を述べているというものだ。
出版された時期も1983年であるから、このブログを書いている時期よりも30年も前に出版されているものだが、いま読んでも全然色あせていないのは、パリの街が全然変わっていないということもあるのだが、記載されている目線が、パリの根本的でぶれないエスプリを機軸に書かれているため、いまでは見た目が異なるが、それをちょっと前のツールで作るとこうなるという参考になるし、30年前に見えていたものが今見えていても全然変わらないというのを歴史的表現として参考になる資料でもあるともいえよう。
文章がうまい人が書くと、時間がかなり経過したあとだとしても、なぜ全然古臭く感じなんだろうと本当に思う。たぶん、それは短期間だけパリに居て、そのときに感じたものをそのまま日本に居る人に紹介しているというのではなく、パリに長年住んでいるときに思ったこと、自分が困ったと思ったこと、不思議だと思ったこと、こうしたらおもしろいんじゃないだろうかと発見したことを、経験談によって文章化したからなんだろうと思う。だから、あとから日本からパリに短期だろうが、長期だろうが、住む機会があったとして、ましてやパリに旅行に来た場合に、おそらく多かれ少なかれ体験するだろうということをいろいろな角度で詳細化しているからなんだろうということもある。
だから、パリに行く前にパリっていうのはこういう雰囲気があるところだというものを、おきらくな頭の中で消化させていくには、本当に脳みその中でパリを散歩して楽しめるものだと思う。脳の中にパリの情景が出てきて、例えばお店の中に入って、相手をしてくれた店の人の情景まで見えてくるというようなものだ。
一般的なガイドブックの場合は、どこの店にいったらいいとか、ここの史蹟についてはこういう歴史的裏があるのでみたほうがいいとか、生活・旅行と関係なく、一遍等な当地の様子を記載していることが多いと思う。ところが玉村氏があちこちパリ市内を歩いて、それぞれのところで気になって、気になったから地元の人に聞いたり自分で調べたことをノートとして、メモとして残しているのを、読者はそれを横から覗き見しているようなものなのだ。でも、雑にそして無カテゴリーとして文章が整然と並んでいるというわけでは全然ない。ちょっと生活密着型をテーマにした百科事典ということだ。それも主人公は誰もおらず、あるときは筆者かもしれないし、あるときは、筆者の目線でみている読者だったりするのだ。
特にいまではデジカメ全盛期のために、文章が下手くそでもそれを写真で補えば、それなりにもっともらしい書籍が出来てしまうという時代であるが、1983年なんていうと、まだまだ一般写真機を使った写真が全盛であるわけで、それもフイルムが高いから、たくさんの写真を撮れないという状況である。ところが、それを玉村氏はイラストという形式で紹介している。適当な汚い絵で描かれた旅行記のような本は最近特に多いのだが、あの手の本は絵で説明をしていると見せかけて、その絵があまりにも下手くそなので、読んでいるひと、本物の品物や状況を知らない人にとっては全然想像も付かないということに陥る。ところが玉村氏のイラストは、なかなか細かく、気にするべき点というのを絵のなかで焦点をあわせているので、たぶん、現地で同じようなものを見つけたときに、やっぱり同じポイントに注目してしまうんだろうなというのは容易に想像できるのだ。こういう細かいところが心遣いとして素晴らしい。女性旅行作家が書いているようなものは、自分大好き人間がきゃぴきゃぴしながら楽しかったーみたいな様子で書かれているので、内容が散漫だし、んでなにが良いわけ?というのが全くピントがずれているところがおおいのだが、そういうのは全く無い。落ち着いて読むことができるものだ。
ただし、いまはユーロの時代であり、シェンゲン協定がある自体であるため、ヨーロッパ旅行の際には同一通貨ユーロで各国を旅行できるようになったし、国境を抜けるときにいちいちパスポートを車掌やら国境ゲートのところで出す必要が全くなくなっている。30年前というと、まだそんなのがなく、1つの国は1つの国だけに通じる通貨しかなく、国境を越えるときにはパスポートにハンコを押してもらわなければならない時代だ。だから、書籍のなかで記載されている通貨の単位は「フラン」であり、そこに書かれている金額はだいたい、1フラン=20円くらいと思って読まないと、全然意味が通じなくなる。手元に、むかしのフランスフラン紙幣でも持ちながら読み始めると、ちょっとは気分が出るんではないか?ただ、別に30年前に気分をタイムスリップする必要は無く、30年前に玉村氏が感じたものを、現代に自分たちが感じても良いわけで、それは本と同じことだったというスタイルは30年経っても変わらないと思うため、現地で自分で感じたことと、この本を比較するのも面白いかもしれない。
パリはいろいろな趣向のひとに受け入れられる町だと思う。芸術と食い物と歴史と文化が溢れているところであり、特にパリの人は日本人とは異なる粋な度量を持っているところがある。是非、パリに行く機会がない人、よくパリに行っている人、個人的な環境に関係なく、是非彼の作品を一度は読んでみていただきたいと思う。
パリ 旅の雑学ノート―カフェ/舗道/メトロ
著者:玉村豊男
文庫: 289ページ
出版社: 新潮社
発売日: 1983/04
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