東南アジアでシルクといえばジムトンプソンというのがどこでも見かけるのだが、その起こりはこのタイのシルクからである。最初、ジム・トンプソンの名前を知ったのはシンガポールに初めて行ったときだったので、てっきりジム・トンプソンはシンガポールに住んでいたイギリス人かと思っていた。なにしろ、名前が西洋名であったからがその理由なのだが、あとからそれは大嘘だったということが分かったし、なんにもないシンガポールが観光客を集めるために、他国で流行っているものをすべて自分のもののように振舞うという宣伝に大いに踊らされた形になる。そのあと、マレーシアにいったときに、ジム・トンプソンがクアラルンプールの郊外にあるキャメロン・ハイランドで失踪するという事件が起こったという史実を知って、もしかして、ジム・トンプソンはマレーシアを活動拠点にしていたのかな?とまたしても間違った想像をしてしまった。キャメロン・ハイランドは標高の高いリゾート地であり、暑いマレーシアでは金持ちが避暑のために別荘を持っている場所でもあるため、マレーシアに活動拠点の中心地を持っていたのであれば、こういうところに別荘地を持っていてもおかしくないだろうという短絡的な考えで思ったことと、シンガポールはもともとマレー連邦の1州であったが、中華系の住民が多いために邪魔だからとマレー連邦から追い出されたという歴史があり、ジム・トンプソンが活動した時期というのはまだシンガポールもマレー連邦だったから、本当のところはマレーシアにいたんだろうとおもったのが理由である。でも、ここでどうして考えなかったのかと思う点が1点ある。それは、マレーシアやシンガポールってシルクをもともと生産していたのか?ということである。シルクは蚕がないと育たない。蚕は暑い地域では育たない。赤道直下のようなところでシルクが生産されることは無いのである。
じゃぁ、なんでジム・トンプソンがタイでシルクを生産・販売し、シルク王になったかというと、この男、もともとは第二次世界大戦中は、CIAの前身であるOSS(Office of Strategic Services:戦略事務局)の情報将校としてタイに勤務していた。大戦後もバンコクで働いていたのだが、アメリカに戻って退役したあともタイのことが忘れずに、すべてを棄ててタイに戻ってきてタイシルクに魅了されたというのが事実のようだ。
バンコクに行ったら絶対行って欲しいのが、「ジム・トンプソンの家博物館」である。BTSのシーロム線で終点の国立競技場(National Stadium)駅まで行き、そこからラーマ1世通りの横道にあたるSoi Kasem San2のドン詰まりまでいくとこの博物館はある。しかし、博物館の前には怪しいひとが結構たむろっている。「今日は博物館は休みだよー」というウソ情報を流しているやつがいて、しつが自分の関係している意味不明なツアーに強引に連れて行こうとするのだが、そんなのは大いに無視して結構である。その前に、駅からこの博物館へ続く道が、本当に汚くて、本当にこんなところに博物館があるのだろうか?と勘ぐってしまう。
さて、入口を通り抜けると、いきなりここはジャングルか?というような鬱蒼とした木々と整理された庭が見えてくる。ここから博物館の本当の入口は実はもっと奥にあるので歩かないといけない。その前に左手に、帰りにでも寄れば良いのだが、ジム・トンプソンの商品を売っている店がある。それを博物館訪問する前に買い物するのもいいのだが、荷物入れなんかは無いので、あとで買うべきだろう。
入場料を払うと、「何語?」と聞かれる。その理由は、この博物館は自由勝手に動き回る形式ではなく、ガイドの説明付きで廻ることになるのだ。自由気ままがいいというような観光客にとっては鬱陶しいこの上ないのだが、そういうシステムになっているのであれば従う必要がある。ある程度人数が集まったらその言語を話すガイドが館内を案内するようなシステムになっているようで、日本人観光客は結構くるためか、頻繁に日本語ガイドによる案内は行っているようだ。時間指定の案内があるまでは、庭園を見て廻ることができるが、建物の中には入ることができない。このジャングルのような庭園のなかにいると、外はめちゃくちゃ暑いのに、この庭園のなかだけは涼しく感じることができる。すぐ隣りに運河が流れているので、この運河の汚い水が臭いから匂いはあんまりよろしくない。これさえ我慢すれば結構楽しめるだろう。
庭園はガイドによる説明のときにも通るのだが、その前に全部がチーク材で作られた建物を眺めるとともに、あちこちに無造作に置かれている陶器やタイ工芸品を観るのも良いだろうと思う。チーク材で作られた建物だが、これは日本の寺と同じように1本も釘を使っているわけじゃない。そして、建物としては現代的な部品は一切使われていないため、窓もサッシは無いので、いかにも昔ながらのタイの建物をそのまま忠実に表現した形になっているので、タイの建築文化を知るという意味でも是非見るべき場所なんだろうと思う。
館内は土足厳禁。土足文化の西洋人にとっては「なんで靴を脱がないとダメなの?」と思う人が多いようだ。そして、大抵の西洋人は靴ではなくサンダルで歩いているので、だいたいが足が汚い。毎日掃除や床を磨いているスタッフの人たちは、ほとんど裸足も同然で訪問する西洋人の汚さに閉口しているんだろうが、金のためなら黙っているのだろう。そして、館内は一切の写真撮影とビデオ撮影は禁止である。もし、その行為を見つかった場合にはカメラ没収であるから注意。最初からダメだといっているのを、ルール違反をして使用したほうが悪いのである。当然の罰だ。それは表向きのことだが、実際には説明をよく聞いて欲しいという思いがあるようだ。なにしろ、ジム・トンプソンの家のなかにはいると、本当に見どころはたくさんあるし、時間がいくらあっても足らないくらいだし、どれを見てもその物品の歴史や文化について長い説明が補足として存在するからである。
ジムトンプソンはタイの文化を非常に敬愛していたようで、タイ中に散らばっている歴史的価値のあるものをたくさん採集していた。タイ人がほとんど無関心であった歴史的な価値のものを外国人が価値あるものだと評価するのは、日本の浮世絵版画と全く同じだと思う。過去のものはゴミとしてしか思っていなかったものが、実は価値があるものだと認識されたときに、元々は自分たちのものだと後出しじゃんけんのように主張するのはどこの国でも同じような無理な主張ではあるが、ジム・トンプソンの収集に対しても、タイ政府はかなりイライラしていたようである。目利きとしてのジム・トンプソンが素晴らしい能力を持っていたということもあるのだが、元諜報活動員であるために、物に対する価値というのを文化的・歴史的側面から分析して、どこにそれが存在しているのか、それが本物かという情報を仕入れていたからこそ集められたのだと思う。だから、このジム・トンプソンが集めて部屋の中に飾っていたものはすべてが価値あるものであるといえよう。
面白いことに、この博物館での彼の生活は、西洋式をそのまま貫いた。建物はタイ式、陶器は中国からの輸入の品を利用という、三様の洋式を混在して生活していたというのは、なかなかできるものではない。もって生まれたアメリカナイズされた生活を変えるのは、海外に長く生活していたとしても簡単には変えられるものではなかったようだ。
ジム・トンプソンの家
The Jim Thompson House
URL : http://www.jimthompsonhouse.com/
Open : 9:00 - 16:30
Admission Fare : 100THB
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