アムステルダムの西教会がある広場には、一風変なものが存在する。数軒の屋台が出ているあたりの一番運河よりの場所に「ホモモミュメント(Homomonument)」と呼ばれるものが存在するということを記載された看板が立っているのだ。いったい、ホモモニュメントとは何なのか?というのが当然の疑惑だろう。
看板には説明書きが書かれていて、それでいったいなにがモニュメントなの!?ということを感じると思われる。それもそのはず、モニュメントは、なんらかの銅像とか建物になっているわけじゃなく、運河を使った総合的なモニュメントになっているため、自分が立っている位置から、人間目線ではどこにモニュメントがあるのか全くわからないような構造になっているからだ。
モニュメントは三角形の形をしているのだが、三角形の1点が運河の河岸からちょっと張り出したような形になっている。他の2点の頂点は運河に面したちょっとした広場のところにある。さらに言うと、運河に突き出た部分は階段状になっており、ちょうど運河から舞台へあがっていくというような感覚を表現したものだ。大きな三角形は、上から見たら全面同じ色の三角形になっているかというとそうではない。ちょうど頂点のところだけがピンク色の石を使って表現している。
なんでこんな変なものがモニュメントになるかというと、このモニュメントがピンクトライアングルと呼ばれるものからインスパイアされて作られているということにつながるし、何のためのモニュメントなのか、そしてピンクトライアングルとはいったいなんなのか?というところを知らないと、全く訳のわからない史跡物になることだろう。
ナチ台頭時代は、優良アーリア人以外は人種的に劣っており、優良アーリア人でもまともじゃない人は人間じゃないというレッテルを張られた。さらに言うと、ナチ後期には病的にもなっていたユダヤ人狩りも徹底的に行われおり、それらで収容した人たちは、集団強制収容所に押し込められていた。ただ、そのときに、十把一絡げ収容しているのではなく、なぜ収容したのかを囚人たちにバッヂを上着の左胸のあたりにつけさせた。それがバッジコーディングシステムと呼ばれたもので、手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」という作品にも出てくるものだ。このバッヂには、囚人の収容特性によって色が変えられていた。そのバッヂが逆三角形になっており、色により次のように分けられていた。
・黒のバッヂ:ジプシー、放浪者、知的障害者、アルコール依存症患者、売春婦、レズビアン
・赤のバッヂ:政治犯、社会主義者、フリーメイソン、アナーキスト
・緑のバッヂ:正規犯罪者
・紫のバッヂ:エホバの証人
・桃色のバッヂ:男性同性愛者
・黄色のバッヂ:二重三角形にして、ダビデの星型にしたのがユダヤ人
ユダヤ人で政治犯なら、この黄色のバッヂの上に赤のバッヂが重ねられた。
ピンクトライアングルというのは上記の男性同性愛者で収容されたひとたちへのレクイエムから引用されているということなのである。ヒトラーは自分の性癖は別にして、徹底的にホモ嫌いだった。しかし、ナチスの初期に作られた突撃隊の司令官レームは有名な同性愛者だったし、本人も若い将校と明け方パコっている間に、ナチス親衛隊に殺されている。同性愛者は人間生活を営む上で、全く役立たずであり、自然の摂理に反しているというのがヒトラーの言い分だ(わが闘争より)
長くなったが、オランダも中立国の立場を第二次世界大戦では取っていたが、圧倒的なナチの強さに即効で服従。そのあとは上記のとおり、気に食わないものはナチの餌食になった。アンネ・フランクが一番有名だが、ユダヤ人だけじゃなく、普通の同性愛者も大量に収容所に入れられたのが歴史である。
後年になって、この事実をいつまでも忘れず、同性愛者が幸せに暮らせる世の中を作りたいという思いから、モニュメントを作成された。その後のオランダは、世界の中で一番先端を行く国家として名を馳せているのはご存知の通り。後世の人間で同性愛者が結婚できるようになったのも、いろいろな闘争があったあとの結果だといえよう。
オランダは常に他の世界から見ると異常の世界だと映る国家だ。あまりにも思想的に先端的過ぎるために、保守的なほかの地域の人たちが追随してこないというのが原因である。これはオランダがプロテスタント国家として成立したときから、潜在的に持っていたジレンマであることはいえよう。
モニュメントの説明書きには、あとから取ってつけたような説明書が書かれていたのであるが、ちょっとそれが強引過ぎるなーと思ったので、下記にメモっておくことにする。
「ホモモニュメントは同性愛ゆえに抑圧され迫害されたすべての女性そして男性を記念している。記念し、行動し、祝う場所がホモモニュメントなのだ。それはまた蔑み、差別、抑圧に対する警戒を喚起する場所でもある。3つの三角形とその2つが一緒になって形づくる大きな三角形には過去・現在・未来が表現されている」
だってさ。どうして、こうなんでも「3」にこだわるんだろうか?
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