マドリードで必ず観光客が行くべきところは、ヨーロッパの中でも保管量と質とでルーブルに匹敵する展示品を保有しているプラド美術館だろうとおもう。ここを行かずして、マドリードに行ってきましたというのは、何しに行ってきたのかわからない。あと、美術大好きの人にとっては、こんなに楽しいパラダイスがあるというのに驚かれることだろうと思う。
スペインは支配地域をイベリア半島だけに限らず、時期に応じて、イタリア南部やシチリア、そしてオランダ・ベルギーのフランドル地方を保有していた。その後、南米のスペイン領のところも保有していたことを考えると、その文化範囲はかなり広範囲だったといえよう。さらにスペインは、大航海時代に東南アジアへの進出を達成しており、その段階で現地材料を取得するだけではなく、現地の文化遺産についてもスペインに持ち込んでいる。従って、建物内に保有している展示物はスペイン独自色が強いものだけに限らず、各支配地域の作品が展示されているので、色々な特色を楽しめるから楽しいだろう。南欧の鮮やかで元気あふれる作品から、フランドルの暗く、陰気な作品まで、千差万別である。個人の趣味の問題だとは思うのだが、絵画の中でもこの趣向の作品が好きだというのがあるに違いないが、たいていのジャンルに対応できるほどの作品の種類があると思うので、それを目当てに行くのもいいだろう。
プラド美術館の入口は、実は結構たくさんある。とても広い美術館であるためか、あちこちの入口から入れる仕組みを採用しているというのはとても面白いと思う。大枠で言うと、地上階と2階の2種類で、それぞれの階に数箇所の入口がある。どこから入ってもほぼ同じだが、たぶん正規な入口としては、北側の階段状になっている2階からだろう。入場券は、単なる入場券(8ユーロ)と、公式ガイドブック付きの入場券(17ユーロ)と2種類が存在する。公式ブック付きの入場券の場合、ほぼガイドブックの値段だけしか掛からず、入場券本体自体の価格は無料になる。それに、公式ガイドブックの量の豊富さはとんでもないものであり、薄っぺらいA4版のガイドブックを想像してもらっては困る。厚さ5cmはあるかと思われるほどのガイドブックで、それを片手に館内の作品を見て歩くというのは、ちょっととても重たすぎて嫌になる。ただ、館内には全くと言っていいほど作品に関する説明が無いので、このガイドブックを見ながら作品を見て歩くことができれば理想である。大きなサイズの絵画の場合には、遠くから見られるように、部屋の真ん中に椅子が用意されていることが多い。そういうところで、ガイドブックを広げて、目の前にある作品について解説を読むのはいいことだろう。しかし、立ちながらの解説読みは体力が要るところだ。ガイドブックは入場券を購入するところで貰うのではなく、円形ドーム型になっている2階エリアのところに本屋があり、そこで引換券と引き換えに受け取ることになる。ガイドブック付きの入場券を購入しなかった人たちが、あとからでも買えるように配慮した形になっている。しかも、このガイドブックは日本語版もちゃんと用意されているため、英語版に苦労する人にとっては願っても無いものになっている。
とにかく、中は広い。テーマごと画家ごとに部屋が大枠として区切られているので、お目当ての画家の作品を見たいのであれば、それだけに搾って観た方がいいだろう。全部の作品を見回る体力があるのであれば、最低でも6時間は必要なのではないかと思う。実際に自分達もそんなにじっくり見ていたわけじゃないのだが、6時間くらいは見続けていたと思う。ただ、そんなに長く見ていると、足が疲れてくるだろうと思うし、似たような絵ばかりだと飽きてくるかもしれない。そこは体力と芸術に対する欲求度を鑑みて鑑賞することが望まれる。
そして、各展示物にはかなり近くまで寄ることができ、すべての作品は、触ろうと思えば触れてしまうような状態で展示されている。日本だと厳重に厳重を重ねて、壁に掛けられた絵は、1mくらいの空間の幅を持って離され、さらにその空間と人間が通る間にガラスをかませて、直接人間の空気さえも当てさせないような厳重管理をしていたことを思い出す。その管理方法から考えると、プラド美術館の展示物に関する管理は、杜撰というか大雑把というか、いい加減という感じなのである。ただ、その代わりに、日本の美術館だったら学芸員と呼ばれる人が警備の仕事も含めて、作品がある部屋に座って監視をしていたりするのだが、ここプラド美術館ではもっとすごくて、学芸員ではなく、本当の警備員がたくさん見回っている。それも機関銃を持って。警棒という程度の低いものではなく、いつでも撃って殺しますという、あの機関銃である。部屋の場所によっては、複数の警備員が機関銃を持ってにらみを利かせているので、ちょっと怖いと感じる。
ヨーロッパの美術館はどこでもそうなのだが、美術館の中で絵を書くことができる権利を有しているのが特徴で、プラド美術館でも、数箇所で本物を見ながら模写している画家の卵みたいなのが沢山いた。きっと観ている作品は同じようなものだと思うが、描いているタッチや雰囲気がまるっきり本物からかけ離れているのではないか?と疑問に思うようなものもある。ただ、画家としてもたくさんのお手本があるので、どれを選ぶか迷わないのかなと気になる。もう少し言うと、どうしてこの作品を模写したくなったのかな?と選んだ理由がわからないようなものを描いている人もいるから面白い。
あちこち館内を歩き回って休憩するところは無いのか?と思ったら、カフェテリアに行ってみよう。1階フロアに結構広いエリアを確保した場所がある。セルフサービスになっているので、サラダやキッシュやサンドイッチから、デザートや炒め物までだいたい食べられるから便利である。もちろんアルコールもここでは普通に売られている。美味いか美味くないかはここでは述べないことにする。休憩場所があるのと無いのとでは、引き続いて美術館の中で鑑賞をするかどうかが変わってくるものだ。ちなみに、珈琲もセルフなのだが、ここのセルフの珈琲は、個別ドリップ形式のものである。それを知らずにお湯だけ出して、「珈琲が出ないじゃないか!」と騒いでしまった自分が恥ずかしい。思わず他の観光客に笑われてしまった。
1階にもお土産フロアは存在しており、美術館のお土産コーナではよくありがちな、画集や観光ガイドブック類が多数揃っていた。プラド美術館はスペインを代表する美術館であるために、ここのお土産屋の書籍類はかなり充実している。スペイン人画家のものであるなら絶対揃っているし満足するものが得られるだろう。さすがにプラド美術館のガイドを持っているのでそれ以外のものは買いたいとは思わなかった。
18時以降になると、この美術館は無料開放される。それを狙って、貧乏学生たちがこぞって美術館になだれ込んでくるから面白い。ただ、そんなに長い時間、美術館自体も開館しているわけじゃないので、何度も何度も無料時間を狙ってやってきて、目と教養を楽しんでいくというのであれば、こんなに優雅な遊びは無いと思う。マドリードに住んでいるひとであるのであれば、夕ご飯の時間が遅いので、それまでの間に美術館に来て鑑賞するということをしてもいいだろう。
なお、プラド美術館に来てから公式ガイドを見て、さてどこを廻ろうかというやりかたをしてもいいのだが、ここはスペインの第一人者である中丸明の著書に事前に頼ってみるのもいいだろう。新潮文庫から出版されている「絵画で読む聖書」を参考にするのもいいだろう。この書籍は、キリスト教世界の絵画全般について述べている著書ではあるが、その例文に掲示されている作品は、プラド美術館所有のものばかりで、しかも写真付きになっているから、あとからでも先でもプラド美術館の作品を見たときに、おぉこれかーと思える参考資料になることだろう。ジャンル別に著書は分かれているわけじゃないので、本当に旅先での参考資料にするのが一番のぞましい書籍だ。
プラド美術館 (Museo Nacional del Prado)
URL : http://museoprado.mcu.es/
Admission Fee : 8EUR
Open : 火曜~日曜 9:00 ~ 20:00
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