2013/05/11

国立馬車博物館(リスボン)

ベレン地区にあり、ジェロニモス修道院にいく手前に、個人的には訪問して楽しかった博物館がある。それは国立馬車博物館(Museu Nacional dos Coches)というものであって、名前の通り、馬車ばっかりが展示されているというものだ。今で言うところの自動車博物館みたいなものなのだが、たぶん現代車だったら興味がある人はおおいかもしれないが、馬車オタクというようなひとというものはあんまり居ないとおもうし、貴族趣味の人だったらここに行くのは結構楽しいことだろう。
たぶん馬車ばっかり展示されており、馬車しかないという博物館は、世界でも珍しいんじゃないのだろうか?おそらく馬車を展示しているという博物館はあったとしても、それは馬車が他のいろいろな展示物のなかの1点というのはよくある話。そして、現代で見られる馬車というのは、観光地で観光客向けにサービスを提供している馬車というのがあるが、あれは昔の基準で考えたら、あまり金の無い人たちが乗るタイプの馬車であり、それをありがたがって乗っているというのは、この博物館にきてしまうと滑稽に思う。なにしろ、この博物館に展示されている馬車は、今で言うところの各個人ごとのカスタムカーであり、その車体の装飾といったら豪華絢爛。馬車の概念というのを全く変えてしまい、1つの部屋だと考えたほうがいいと思うくらいの豪華さ満載のものばかりだからである。貴族の馬車、キリスト教の教皇の馬車、王家のひとたちが乗る馬車というものが、通常、どういうものかというのを本当によくわかるものである。飛行機のA380でシンガポール航空がファーストクラスの中でも超すごいタイプの座席を提供しているが、あんなもん、この馬車に比べたらたいしたことは無いと思うことだろう。もちろん、現代と中世とでは持っている設備は違うのは当然だが、豪華さという意味では圧倒的に馬車のほうが勝ち。
 
よく、車や飛行機でいうところの「コーチ」や「クーペ」という語源が馬車のタイプであるということは知られているのだが、実際に展示されている馬車の車種を見れば、ははぁーんと納得するものばかりである。

現在の車は、同一形状を大量生産することで価格を抑えて、手に入りやすい値段になるように工夫はされているが、中世の貴族の世界では、安い値段で作るという感覚が欠如しているということと、いかに他の人の持ち物と違うものを持つかということに、ステータスや見栄ということに命を懸けていたので、服装でいうところのオートクチュールばかりしかない。だから、展示されている馬車についても、どれひとつとして同一車種というものが存在しないし、誰の持ち物だったかというのは解説で書いているものの、馬車自体に紋章だったり、サインに該当するものだったり、イメージカラーだったりと、その人を表すものが車体のどこかに記載や搭載されているのがおもしろい。だから、他のひとがその馬車をみたときに、車体のなかは見えない状態だったとしても、車体をみれば誰の馬車かというのが一目瞭然でわかるという代物になっている。

展示の説明をみると、各ポルトガル王やその妃が使っていたという説明がたくさん出てくる。そしてできれば、この馬車博物館に来る前に、どういうポルトガル王がいつの時代にいて、何をしたひとかという基礎情報は持っていたほうがいい。なにしろ、説明には何王の馬車と書かれているだけなので、いつの時代に作られたものかというのが想像できないのである。そして、もう1つ王家の歴史と共にこの博物館で知っておくべき基礎知識というのは、馬車を装飾しているモチーフの意味だろう。馬車の支柱に使われているケルビムはなぜ付いているのか?などなど。
 
現代的な馬車が無いということもない。イギリスのエリザベス2世女王がポルトガルにやってきたときに、特別に作らせて利用していた馬車というのもここには展示されている。しかし、中世の時代にくらべると、ずいぶん簡素にはなっているが、やはり情報が自動車で移動というよりは馬車で移動というほうが絵になるために、馬車を選ばれたんだろうとは想像がつく。
博物館自体は2階建てになっているが、2階には特に馬車を展示しているというわけじゃない。上から1階に展示されている馬車を見下ろして見学できるようになっている。ただ、それだけじゃつまらないからだろう、ポルトガル王とその家族の肖像画についても掲載されているので、それでポルトガル貴族を勉強すると言うのもありだろうと思う。

ここに展示されている馬車をいま作った場合、いったいいくらの値段がかかるのだろうか?と想像できない。たぶん10億円くらいはかかるんじゃないのだろうか?なにしろ装飾のための彫刻が細かすぎるし、作るのに時間がかかるだろうからだ。


国立馬車博物館(Museu Nacional dos Coches)
URL : http://www.museudoscoches.pt/
Open : 10:00 - 18:00
Holiday : 月曜日
Admission  Fare : EUR5.00

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