中国人はもともと商人の気質がとても強い民族である。それは常に戦乱の世の中であったために、金のみが信じられるものであり、国家に対してなにか期待するということは全くなかったからである。これはもう中国大陸に人間が住み始めたときからずっと繋がってきた彼らのDNAである。商人という言葉の「商」は日本では「殷」と呼ばれている国家のこと。殷の人たちは他国への商いによって国家形成していたということからのゆえんである。
大半は農民である中国大陸の人たちにとって生活の糧になるのは米作りであった。しかし、福建省は海岸付近まで1000メートル級の山が連なっており、領土は広いが耕作できる面積が少なかった。したがって、生活の糧を得るために福建省のひとたちは古くから東南アジア各地に散らばって華僑として金儲けに走っていたのはわかりやすい歴史だ。
そんな中国も1949年に共産党が中国大陸の主になった途端に「儲けることは汚らわしいことだ」ということと「プロレタリアートこそが国家の中心になければならない」というふざけた毛沢東思想による国家統制が始まる。金持ちと有識者をことごとくユダヤゲットーに入れるようにぶったたき、脳みそがサル状態になった国民を束ねることで、共産党は素晴らしいということと、この国家を率いるのは毛沢東様様しかないという神格化を作った。まさにいまの北朝鮮が行っていることのお手本である。唯一の金儲けを許されていたのは毛沢東。国民の誰もが保有していた「毛沢東思想」を売る権利は毛沢東にあり、これは国民全員がもっていたことによりその儲けはすべて毛沢東の懐に入った。共産党の資産ではない。共産革命こそが国民が進むべきものだという「向前看」の号令しか許されなかった。
そんな金儲け否定状態のときに天安門事件が発覚。国民の爆発はこのとき最高潮になったのは記憶に新しい。民主化要求の動きは、打倒共産党に動きが流れる。共産党の崩壊は、これまでの自分たちの存在および思想が根本的に間違っているという非を認めることになる。非を認めることほど中国人に対して死の宣告に値するようなものである。共産党政権は慌てた。そこで賢い鄧小平は考えた。そうだ「国民に政治を語らせるな。金儲けをさせていれば彼らの不満は払拭できる」と。そこで、数十年ぶりに「金儲け」が解禁されることになった。
ところが、これまでの共産党政権がまともに公約を守ったことは一度もない。常に国民の期待を裏切る結果になるし、まともに死んでいるほうがバカだという結果にもなった。だから、このときの共産党トップである鄧小平の言うことが「本当に金儲けしてもいいのだろうか?」とほとんどの国民が疑惑に思ったようである。過去には文化無き文化大革命が存在して、ありもしない罪を着せられたという経験をした中国人である。ダメだと何十年も言ってきたことを突然良いと言われて、誰が信じるだろうか?しかし、結果としては中国人は持ち前の金儲け主義に従って、日本の戦後復興のスピードよりも確実の高スピードで躍進し、いまでは世界の経済を引っ張ってしまい、しまいにはコントロールするくらいの実力になったのは誰もが知ることだ。
鄧小平による「向銭看」路線を進めていくことによって生まれてきた中国内部のいろいろな事情や弊害について、とてもよくまとめられているのが、この本「拝金社会主義・中国」である。簡単に言うと、中国の躍進に対して、これまで、これってどうなってるんだろうな?と個人的に思っていたことがこの1冊で全部まとまっていて、それも綺麗に整理されていたので、とても参考になった本である。
政治に無関心になるために金儲けを推奨した政治手法は、徐々に国民に再度民主主義の熱を再燃させてしまい、この収拾に苦労しているのは、ツイッターやニュース記事を見ればよくわかる。各地で収まらない暴動に対する武力による収束がそれだ。そして、国民も閉鎖的なネットワークをGreat Fire wallによって形成されていたとしても、内部から壁越えして外のネットワークと接続している人たちももちろんたくさんいる。つまり喰うに困らなくなった後は、精神文化の形成が生まれて、そしてその延長には真の精神文化である民主を求める力に発展するのだ。これを中国政府は恐怖だと思っている。国民はさらに外から文化の水を求めるために規制をかいくぐろうとする。外からの情報を得られないようにするために政府は防火壁を重厚にしようとするいたちごっこ。
結婚できない都市の「デキる女」と結婚できない農村の男という種別が生まれ、都市の女性は、親が勝手に公園で親同士で嫁の貰い手を捜して、親同士が本人不在のまま見合いをしているという珍現象とそれをサポートするビジネスが生まれているという滑稽も本の中では紹介している。さらに、大量の大学生、いまでは毎年560万人もの大学卒業生を生んでいる中国だが、これが就職先が全く無くプー太郎になっているのが大量いるという。でも、親が中国躍進のために金持ちになっているから、子供がプー太郎になったところで生活に困ることがないという、ちょっと前の日本と同じような現象も紹介しているところもわかりやすい。
一番わかりやすいのは、日本での報道では、中国国民は「反日の愛国主義者だ」と言われているのだが、これは大間違いであること。反日を唱えるのは中国共産党が自分たちに国民の批難の集中砲火がこないように、かつて中国を苛め抜いた記憶に新しいところの日本がめちゃくちゃにしたから生活が悪くなったのだということを教え、それをバカなりに信じている田舎の無教養のひとたちと、共産党幹部と甘い汁がすえなくなるのを恐れている人たちという一部の中国人だけが「反日愛国主義者」であり、その他の人たち、特に若い人たちは日本大好きが実情。親の世代がなぜ日本大嫌いだといっていることが理解不能だという世代なのである。
さらにおもしろいのは、中国共産党規約で「中国共産党とは中国の労働者階級の先鋒隊である」と謳われているのだが、ここに労働者階級ではない「資本家階級」を新しい労働者にすることが必要に迫られたことだ。資本家階級が自由に金儲けできるようなことをしないと中国の発展がない。発展がないとまた国民の不満が共産党に向いてしまうということなのだ。党内規約もめちゃくちゃ変えてしまうところが、中国政府として一番守りたいのは共産党であるということの表れだろう。誰がではない党なのである。
各種の矛盾と大きくなる歪はどこまで発展していくのか、その基礎となるデータと過去の歴史についても克明に情報を載せている。中国内部のシンクタンクにいることによって、余計中国政府の情報を知っている著者の長所を克明に盛り込んだものだろうと思う。中国の動きについては半年も過ぎれば情況はだいぶ変わる。だから、半年後にもまた新しい本を発表して貰って、最新の中国情報を随時出していただきたいという希望はある。
拝金社会主義・中国
著者:遠藤 誉
新書: 248ページ
出版社: 筑摩書房 (2010/2/10)
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