ブダペスト市内のほとんどは世界遺産に登録されているのに、ドナウ川にかかる市内の主な橋のうち唯一世界遺産に登録対象とされていない橋がある。それは、4つの大きな橋のうち、一番南側にある橋である「自由橋(Szabadsag hid)」である。ブダ側の丘にはイタリア出身の殉教者ジェラルド(ゲッレールト)に由来する聖ジェラルド像や、その麓にはゲッレールト温泉がある場所だ。ペスト側は、中央市場がある場所で、どちらも交通の要所ではあるし、その両端を結ぶ橋は、ひっきりなしに路面電車と車が通っている。現在は自由橋と呼ばれる橋も、実は1918年のハプスブルグ帝国崩壊まではフランツ・ヨーゼフ橋と呼ばれていた。ハプスブルグ帝国でも、王妃エルジェーベド(ドイツ語読みだとエルーザベド)はハンガリー国民から大変慕われていたため、第二次世界大戦中に崩壊させられたといっても、再建築した際にも名前は残った。ところが、旦那の皇帝のほうは、常にオーストリアが疎ましいと思っていたハンガリー人にとっては嫌な存在だったために、帝国崩壊とともに名前をなくしたという逸話がある。皇帝本人もここまで人気がなかったというのは死んでからわかったことだろう。
実はこの橋、最近も改修工事が入っている。2009年に工事が終わったのだが、橋に備え付けられていたライトがこれまで陳腐なものだったのに、橋が架けられていた当初のようなアールデコ調のくるくる巻き風電燈に置き換わったのはうれしい。やはりフランツ・ヨーゼフは嫌いだが、ハプスブルグとともに優雅であった時代への回顧というのは捨てきれないのだろうと思う。
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